「わしゃあ、 このやに すみついちょる だいふくもいじゃ。もう、 かれこれ さんびゃくねん、なにも くうちょらん。 はらが ひついて しょうがないきに あずき おおせ」
(『だいふくもち』より)
我が家は餅つきをしなかったので、近所の菓子屋に頼んで餅をついてもらっていた。年末になると木の餅箱が2つ届き、1つには大小いくつもの鏡餅が入っており、もう1つには長方形の切り餅が隙間なく並んでいた。餅箱はしんしんと冷えるお座敷の隅に置かれ、私達兄弟は毎日のように障子を開けては、形はややいびつ、しかし白い粉をまといむっちりとしたつや肌の餅を、「もういくつ寝るとお正月」と歌いながらあきることなく眺めていた。晴れて元旦。餅までの道のりはまだ遠い。朝風呂に入り身を清め、「明けましておめでとうございます」の挨拶をし、杯を渡され、ただ甘ったるいだけのお屠蘇を一口、家長から新年の一言を頂き、やっと「お餅はいくつ?」と母から声がかかる。たいがい、お雑煮に2つ、海苔巻に納豆餅、きなこ餅で合わせて4つ、その後にまだおかわりをしていたのだから、今思えば随分と食べたものである。居間にある石油ストーブにのせた網の上で、膨らんではしぼみ、次に大きく膨らんでは破裂する餅を家族で見ては、「ぷんぷん怒ってふきちゃんのようだ」なんてからかわれて泣いたこともあった。蔵王の麓がまだ雪深いころの正月の話。
さて、今回紹介する絵本は『だいふくもち』です。怠け者でぐうたらしてばかりのごさくの家の床下から「ごさく」と呼ぶ声がします。床をめくってみると、何やら白くまんまるくひしゃげたものがいました。話を聞いてみるとそれはこの家に住み着いているだいふくもちで、300年なにも食べていないから小豆をよこせと言うではありませんか。ごさくが小豆を与えると、それを包み込むようにして食べ、しばらくすると、なんと!小さなだいふくを産みました。それからというもの、ごさくはだいふくもちが産むだいふくを売って大儲けするのですが、欲というのは底なしです。ごさくはもっとだいふくを作りもっと儲けようと、だいふくもちの上に小豆を山盛りにし、無理やり食べさせたところ、ごさくの身にとんでもないことが起こります。土佐弁の語りが心地良い、おかしくも静かな怖さがある物語です。
そういえば、私は子供の頃、大福と言うものを知らなくて、大福と言えばアイスクリームの「雪見だいふく」のことだと思っていました。薄くて柔らかいお餅で餡を来るんだしっとり重たい和菓子を初めて食べたのは実は社会人になってからです。
☆今月の一冊:『だいふくもち』(田島征三 作/福音館書店)