「ご賛成のかたは、右前足をおあげねがいます。(中略)反対のかたは、左あと足をおけりください。」 (『黒ネコジェニーのおはなし』より)
東京の地形は意外と起伏があり、谷のつく地名がたくさんあるのですが、夏が過ぎ去るのと同時に谷から新しい谷へと移り住みました。煙猫にとっては2回目の引越しです。さて煙猫は体つきは堂々としているのに気は小さくはにかみや、いつもおっとりくったりしてるのですが、移動はまったく大変で、ケージに入れたその時から何十分もこの世の終わりのような声で鳴くのです。電車での移動はとても無理、早々に諦めて道行くタクシーを捕まえ、すみませんすみませんと運転手さんに平謝りし煙猫をなだめすかし、15分ほどで新しい谷底へ到着です。新しい谷底の部屋は階段もあり、1ルームからやってきた煙猫にとっては極楽なのですが、その前に彼には大きな試練が1つ待ち構えていました。実は新・谷底には既に猫が住んでおり、彼らに受け入れられなければならないのです。1日が過ぎ2日が過ぎ……煙猫はいまだ2階から降りることができません。下を覗きこむものの、階段をちょうど降りたところにある椅子で休んでいるご婦人と目が合うやいなや威嚇され、煙猫は情けない声で唸るものの尻尾を巻きすごすごとUターンする毎日です。
そんなはにかみやの黒猫が出てくる物語が『黒ねこジェニーのおはなし』です。小さな黒いみなしごネコだったジェニー・リンスキーはキャプテン・ティンカーに拾われて幸せに暮らしています。さて、キャプテン・ティンカーの庭にはキャット・クラブという猫の集まりがあり、近所に住むネコ達はみんなこのクラブに入っています。ジェニーはキャプテン・ティンカーに外に出てキャット・クラブのネコ達と一緒に遊ぶように言われるのですが、はにかみやのジェニーはなかなか輪に入ることができません。たくさんの個性的なネコが出てくるかわいらしい物語です。煙猫も早くキャット・クラブの一員になれるといいのですが。
☆今月の一冊:『黒ねこジェニーのおはなし1 ジェニーとキャットクラブ』(エスター・アベリル作/福音館書店)