入居者名・記事名・タグで
検索できます。

3F/長期滞在者&more

偶然と想像

長期滞在者

毎月24日に記事が公開されるので、12月は必然的にクリスマスイブが公開日となる。

これまでクリスマスで貰ったものの中で最も覚えているのが、コンボイだ。

コンボイはビーストウォーズというシリーズの中に出てくる登場人物で、普段はゴリラの恰好をしているが突如ロボットに変身して、敵に立ち向かうキャラクター。

たしか、私自身はサンタさんの正体を知っていたが、妹がまだ幼く、家の中で当然のようにサンタクロースが来ていた年だったと思う。

その年に私がもらったコンボイは、50cmほどの結構サイズの大きいおもちゃで、腕や首を折り畳んで裏返していくと、30秒ほどでロボットに変身した。

両親に無理を言ってクリスマスプレゼントにコンボイをおねだりしたとき、「ほんまにこれがええの?」と何度も母親に聞かれたことを憶えている。
結局、コンボイの熱は3ヶ月も経たずに冷め、合計10回ほどしか変身させないまま、いまも実家の押し入れの中にあるかもしれない。

これが私が最も記憶に残っているクリスマスプレゼントだ。

先日、「偶然と想像」という濱口監督の映画を見た。

濱口監督の映画はいつも楽しみにしており、本作も平日の仕事を早めに切り上げて、家から電車で15分ほどの駅にある映画館に公開初日に見に行った。

映画の上映直前に濱口監督のビデオメッセージが流れてから、本編が始まった。

3つの短編から構成された映画なので、長編を見る際の強い緊張感を持たずに、肩の力を抜いて見ることができる。

映画が始まると、濱口監督が今年公開したもう一つの作品「ドライブマイカー」の中の稽古の場面のように、意図的に棒読みの要素が入った演技が続く。

冒頭のビデオメッセージで濱口監督は「好きな俳優陣と好き勝手撮った作品」と語っていたが、まさに音読のワークショップを重ねた後直ぐに本番の撮影に入ったような印象を受けた。

「それってエロくない?」というセリフも映画の中で実際にあったが、艶という漢字の如く、会話の中には色気が豊富に溢れていた。背徳的であるがゆえの正常な色気を感じた。

その色気は、言葉の1つ1つのピースの積み重ねで醸成されたものではなく、もともと登場人物同士で互いに色めいた感情があるからか、もしくは特殊なシチュエーションに置かれているからこその色気の様に思え、言葉は単にそれを掘り起こす手段であったように感じた。

映画の中で、笑っていいシーンなのか分からないけれども、どうしても笑いが漏れてしまうシーンがあった。

この映画に限ったことでは無いが、たとえ真剣なシーンであっても(だからこそかもしれないが)、例えば「うんち」や「ちんぽこ」といった言葉がそのシーンの中に入ると、もともとの世界観とは異なる世界観が一気に押し寄せたように笑いが止まらなくなる。この作品の中では「オナニー」という言葉がそうであった。

また、会話劇であるにも関わらず、実世界とはかけ離れた異世界のシチュエーションのように感じられたのは、登場人物の顔が真正面からクローズアップされるシーンが頻繁に挟み込まれていたからかもしれない。一対一で会話をする場面において、真正面から相手の顔をなかなか見ることが出来ない私にとっては、普段自分の目で見ている世界とは異なり、カメラによって作為的に生み出された別世界のシーンのように思えた。

最近、言葉を発した直後に、自ら小さく数回頷く癖が出来た。

例えば友人と本当に楽しい時間を過ごしていると、言葉を頭で選んで話している感覚が無くなり、勝手に自然と口から言葉が出てしまう。そして、口から出た言葉を慌てて頭で捉え直して「よかった、ちゃんと思ってたことが言えてる」と合点し、発話後1秒ほど遅れて頷く。

それは友達との会話だけでなく、仕事でお客さんと打合せをしている際もこうした頷く癖が出てしまっている。仕事の場面においては相手に妙な納得感を与えられるようで、功を奏しているような気がする。もしかしたら、頷くことで自分の会話にリズムが生まれていることが好循環になっているのかもしれない。

一方で、書き言葉となると、よっぽどのことが無い限り、自然と出てくる言葉に委ねることなど出来ず、一旦頭で考えてからキーボードを打たないといけない。

瞬発力や反射神経とは異なった世界で言葉を使う機会が毎月訪れるのもアパートメントのおかげ。

来年も1月24日~12月24日までの全12回、どうぞよろしくお願いします。

トップへ戻る トップへ戻る トップへ戻る