まるでそこだけ世界から切り抜かれたような、そんな空間にいた。
ここ数年、仕事で多くの時間を過ごしているH村。
標高が高くこのシーズンでも氷点下に入り、雪が降っている。
先日、その村でイルミネーション点灯のイベントがあり、村の多くの人達が集まる会になった。
村といっても、簡単にひとつに括れるようなものではなく、その中には様々なグループがあり、もともと住んでいる人達の集まりや移住者達の集まりがあったり。そして、「村にもっと人が来るような仕掛けをしたい」、「いやこのままの平穏な村の姿を変えたくない」など色んな意見が渦巻いているだろう。
でもこの村の自然や空気が好きなのはみな同じはず。
色んな想いを持った人たちが集まり、イルミネーションを見て、ステージを見て、お腹を温めて、そして焚火に集まる。
このイベントにおいて、私たちはイベントの主催者から少しばかりの予算をもらい、来場者にドリンクを出す役割で参加することになった。
色々顔を覚えてもらいたいから帽子は被らないでおこうと思ったが、イベント会場に着く前から、そんな悠長なことを言ってられる状態じゃないほどの吹雪で、今シーズン初めてニット帽を被った。
吹雪いていると、否が応でも大きい声になる。
相手の目を見て、表情の機微を読み取ってなど生まれる余地がない。その方がコミュニケーションとして楽だなと思った。
人と話すのは吹雪の中がいい。
小さいことも気にしなくなるし、この吹雪の中という一種諦めがつく、笑わざるを得ないような。
と思っていたら、イベント開始の直前に吹雪は無事止んだ。
イベントには、我々が運営している店で名物のジュースも持って行ったが、吹雪だったのでホットコーヒー、ホットティー、ホットミルクがどんどん出た。
最終的には200個用意していたカップが足りなくなり、隣でミネストローネを作っていたテントからコップを補充してもらった。
広場にはスウェーデントーチと呼ばれる、中央に切れ込みを入れて燃やす丸太もいくつか出ていたが、そのネーミングが付いているだけでとてもデザイン性があるものに感じられる。
会の終盤、村で1つだけある小学校の子どもたちがステージで合唱している様子を見ていると、本当に全員が全員澄んだ顔をしていた。
小学校の頃ってみんなこう何の憂いも無く完璧な笑顔やったっけ?と思ったが、自分の小学生時代はあんなにまっさらな状態で歌えてなかっただろうと思い、場の雰囲気からなのか、本当にこの村で暮らしていたら表情がそうなるのか、ほんの一瞬だけ怖さを感じ、また微笑ましい感情に戻った。
ちょうどその日の午前に、この小学校に子どもを通わせている方から、通学の話を聞き、中には3キロ歩いて通学している子もいると聞いた。同級生が全員数百メートル以内に住んでいた私の小学校とは大違いだ。
焚火にあたって指先を温める。
間に合わせの軍手をつけていたが、村の人達は街ではあまり見ないような、かといってスノーボードで付けるグローブよりは薄手の手袋をつけていた。
それは、冬季の農業用のグローブで、冬にモノを運んだり、作業する際はその手袋が必須らしい。
1つ1つ場に合わせて順応していく。
広場の中で、一人だけスーツを着ている人がおり、数ヶ月前に就任したばかりの若い村長だ。
事業で色々超えなければならないハードルがあり、引き続きよろしくお願いしますと伝えたところ、「いろいろ話を聞いてますよ」という声を受けた。
村長と共に商工会長など村のキーマン達も出席していた。
せっかくのアットホームなイベントなのに、こうした人達の動きに敏感にならざるを得なくなっている自分に対して少し虚しさを感じる。
村にはご当地マスコットがおり、イベントでもその着ぐるみが用意されていた。
我々の会社の中のメンバーがその着ぐるみの中に入る案が出ていたが、ちょうど我々が連携している村の学校の学生さんがイベントに遊びに来ていたので、彼に村のマスコットの「中の人」になってもらうことになった。
中に入った後の動き方に縛りは無いのかと思ったけど、村役場の人も「どうぞどうぞご自由に〜そいや俺も昔入らされたことあったな〜」という様子で、この緩さがいい。
村の子どもたちの中でもこのマスコットは知れ渡っているようで、裏手から登場して、1人の子が触り出すと、色んな子たちが寄ってきて、触ったり、若干軽いパンチを放ったり。
まだ3歳ほどだろうか、赤いダウンを着た、子どもたちの中でも一番小さい男の子がずっとマスコットを見続けていた。
マスコットが広場から裏に引っ込む際も、その子だけは名残惜しそうに、着ぐるみの後ろ姿を見ていた。
そこには混じり気のない温かい眼差しがあった。
今年で30年以上続いているというイベント。来年も無事に参加できるよう1年を過ごしていきたい。