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3F/長期滞在者&more

土用の丑の日

長期滞在者

三連休の初日、朝起きても目覚めた心地がしなく、とりあえず出張する日のように無の気持ちで、義新幹線に乗らねばという義務感と共に、コーヒーも飲まずに短パンとサンダルで東京駅へ出かける。

3連休の東京駅は予想通りすごい人で、ただ自分が麻痺しているのかそれを当たり前のように感じる。もし海外から初めて日本に来て東京駅に来たら、あまりの人の多さに辟易しそうだなと思った。

新幹線の中では、大阪淡路の自転車屋タラウマラ店主のDJ PATSAT氏の日記本を読む。

行きの新幹線で全部読み終えてしまうかもと思ったが、心に留めておきたい文がいくつも出て来てページを捲るのがもったいなく、ゆっくりとゆっくりと読んでいた。

途中、埼玉を過ぎ長野に近付いた辺りの車窓からの眺めで、旅をしている感覚になる。

新幹線の隣の席のおばあちゃんは大きい荷物を持っていたが、どういう用事で東京を訪れていたのか、もしくはこれから北陸へ行こうとしているのか。

前日から天気をチェックしていたので36度の猛暑になることは分かっていたが、目的の富山駅を降りるとやはり暑かった。

駅ビルの中に八番ラーメンが入ってるのを見つけて食べる。

8と書かれたかまぼこ(ハチカマというらしい)は一口目で食べてしまった。

店内には、地元で暮らしている東南アジアの方たちが何組か集ってラーメンを食べており、和気あいあいとしていた。

駅を出ても暑さはひどく、駅からアーケードまで5分ほどだと勝手に思い込んでいたら、実際はなかなかの距離で汗だくになる。

途中、大通り沿いに城があったが、暑すぎてチラっと寄るにとどまった。

途中、出くわした富山市ガラス美術館の入り口には「これまでの10年間の展示の選りすぐりの作品が並んでいる」というポスターが掲げられており、これはまたとない機会だと思い、涼みたい思いも含めて、中に入る。

ガラスが素材となるどういう作品が展示されているのかまるっきり予想出来てなかったが、心を撃つ作品ばかりだった。

美術館で涼んだ後に足を運んだレコード屋ディスクビートもこれまた最高の空間で、家の近くにあれば何度も通いたくなるようなお店だった。

フォークとハードコアの棚が絶妙で、ブラジル、レゲエや、日本の90年代のものも並んでいる。

今回はCDしか見れなかったが、今度はレコードも見てみたい。

迷ったあげく大谷氏の新作とPiledriverの未開封CDを購入。

その後、路面電車に乗って富山駅に移動していると、少しだけよそ者から住民に近くなれたような気がした。

暑過ぎて早く海に行こうと思い、富山駅のファミマでおにぎりを食べて、次世代型の路面電車LRTに乗って岩瀬浜に向かう。

車両の中で、おそらく欧州の研究者か行政マンと思われる方が地元の行政か大学職員と、なぜこのLRTが出来て富山が成功例として挙げられるのかという話をしており、ふむふむと聞き耳を立てていた。

終点の岩瀬浜駅につき、そこから10分ほど歩き海に着く。

日本海の砂浜に辿り着いて、もっと感動するかと思いきや、着いた瞬間はそんなに感情が浮かび上がってこなかった。

とりあえず肌を焼こうと思い、わざわざ自宅から持ってきたスプレー型のコパトーンを身体に塗りたくる。

が、暑すぎて焼くよりも海で泳ぎたくなり、そのまますぐ海に飛び込んで泳いだ。

ちょうどいい位置にテトラポットがあり、そこまで平泳ぎをし、テトラポットから全速力でクロールをして帰ってくるというのを5往復ほどする。

ゴーグルも持ってきていたので、海の中がよく見える。魚もこんな普通に泳いでるんやと当たり前のことに築く。

海に入ってぼーっとしていると奥に山々が聳え立っていることに気付く。こんな山に囲まれて泳ぐことなんか今後無いんじゃないかと思うほど感動する。

テトラポットまで行ったり来たりを何度かして、肌を焼いて、そして肌を冷ますために海に最後に入る。

海を出た後、途中コンビニがあったのでプロテインを飲んで、歩いて15分ほどの距離にある温泉に向かう。

と、その途中に立派な展望台を発見し、さすがに足が疲れたからエレベーター使って登ろうと思ったら階段のみだった。「トレーニング目的で使わないでください」という張り紙があるくらいのなかなかの段数があった。

展望台からは、岸に多くの車が並んでいる姿が見えた。富山から海外に輸出されているのだろうか。もしかしたら新車ではなく中古車だったかもしれない。

色んな裏側を見せてくれる展望台だった。

展望台を後にして温泉に辿り着くと、開いてはいるものの、中に番頭さんはいなかった。

シャンプー50円ボディソープ50円と合わせて入浴料600円を置いていこうとも思ったが、やっぱり後から払うことにして、先に風呂に入ることにした。

先客は3名ほど地元のおっちゃん達がいた。

これは相当熱い湯じゃないかと心配したが、ほどよい熱さだった。

上がると、想像より若めの番頭さんがおり、600円を渡す。

温泉を出て、富山駅に戻るためにLRTに乗ると、引き続きぎゅうぎゅう詰めで、本当に生活に欠かせないんだなと思った。
ごきげんなおじちゃんも多く乗っていたが、よく見ると競輪の新聞を持っており、近くの競輪場帰りのおっちゃん達が多く乗ってたことに気付く。

海で泳いだからか腹が減り過ぎて、はなまるうどんでぶっかけうどんを食べる。なんで富山まで来てコンビニやチェーン店に入るんやと思いながらも食べる。

高岡を経由で氷見に行く。氷見まで向かう車両から見える海の景色が、日暮れも相俟ってあまりにもきれいで途中で降りたくなる。

今まで見た中でこれに対抗出来る景色は、香川で瀬戸内海沿いを走る車窓から眺めた景色くらいだった。

氷見駅に着いて歩いていると当たり前のように海に辿り着いた。海水浴場では無いが地元の高校生か大学生のグループのうち男子だけが海に飛び込んでいた。
(「若い!いまのうちに楽しんでおきなよ!」と彼らに心のなかで呟けばよかったと、これを書きながら思った)

その後歩いていて、富山で震災があったことを改めて思い知る。

自分の中での風化の早さが、能天気さが怖くなる。

国内旅行で地元の神戸を訪れる人もそうなのだろうか。

アーケードを歩いていると藤子・F・不二雄の漫画のマスコットがたくさん並んでいてレトロな雰囲気に包まれていた。

中には、通るたびに音声が流れるマスコットもあり、この通りに住んでいる店主は1日何百回も聞くのか、人生で何万回聞くのだろうと余計な心配が頭をよぎった。

小さい川ではいきなり光と音楽と共にキャラクターが現れて、その様子を子供連れの一家族だけが眺めていた。

どこか違う世界に紛れ込んだような気がした。

夜ごはんを食べようと川沿いにある寿司屋に入った。中には2人先客がいた。

席に着いてまず瓶ビールを頼んだ。そういえば回らない寿司屋に入るのも人生始めてだはと思った。

「何いきましょう?」と大将から尋ねられ、咄嗟に思いつかず、壁に貼ってあった特上、上、並にぎりの中で真ん中の上を頼んだ。

カウンターの横の端に座ったので、大将がにぎりを作っている様子がはっきり見える。

もしかしたら一番座って欲しくない席に座ってしまったかと思ったが、何十年も店をやってる大将は握る姿を見られても何も気にしないだろうと思い直す。

先客の2名は追加でイカゲソを頼んでそそくさと平らげてお会計をしていた。

なんか店が少し淋しい感じがすると思ったら、BGMもテレビもラジオも無いからだと気付いた。

そういう無音の店に来るのは久しぶりかもしれない。

ただ、魚の味が分かる舌を持って無いので、美味しさはそこまで分からなかった。

「ほんとはもっと人が多いんだけど、今日はうなぎの日だから人が少ない。ここの人たちは昔からみんな家でうなぎ食べるんだ」と店主から聞いた。

その日は土用の丑の日だった。

店主と奥さんと私の3人だけになり、話はお祭りの話に、冬の雪の話に、震災の話になった。

このお店に来てよかったと思った。

電車まで時間があったので、周辺を散策するとスナックが並んでいるビルがあった。

お客さんはほとんど馴染みのお客さんばかりなのかと思ったが、もしお店で何かトラブルを起こしてしまったら、噂も広がって、もう界隈ではやっていけなくなるのではと思った。

氷見を後にして、同じ電車で暗闇の中に海を感じて高岡に戻って、大仏を見て、夜行バスに乗り込んだ。

3列シートの前の席から尋常じゃないいびきの音が聞こえてきたが、その音も気にならないくらいに爆睡して、気付いたらバスタ新宿に着いてまた暑い暑い1日が始まった。

新宿では、ベルクのモーニングでコーヒーを大きいサイズに出来ることを初めて知った。

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