長期滞在者
「ガブリが みかんになったよー ガブリは、くいしんぼうで わるいこで ばかですよー おとうさんに しかられるー おかあさんに しかられるー こまったよー いいこになりますよー みかんいろなんていやだあ。まっしろくなりたいよー」 (『ガブリちゃん』より) 蔵王の麓から東京に越してきた冬、どこかの家の庭先にだいだい色の実がなっていて、それがみかんの仲間だと分かった時の驚きは今でも鮮明に覚えている。あら…
長期滞在者
ここのところのブリュッセルは摂氏零度を境に最低気温と最高気温の差が5度ほどという状況が続いている。 今までのものより1.5倍暖かいという最新ヒートテックで武装してはいても、寒気が染み入ってくる。寒い。 冬至から一ヶ月も経とうというのに、日の出が8時半ごろで日の入りは17時過ぎだ。 しかも日本から戻ってからというもの、ほとんどが雨もしくは雪か曇りで陽の光をみたのはほんの数時間じゃないかと思う。 つね…
長期滞在者
ほんの少し前まで、毎日電車に揺られながら仕事にむかうっていうことが、自分にはできないと思っていた。ずっと、ずっと、自分には普通の人が当たり前にやっていることができないんだって、なにかが欠落しているんだって思っていた。だけど、気づけば今では、無理だと思っていたことが自分の当たり前になっている。今の自分には、ほんの少し前までのわたしの中にあった劣等感がない。その劣等感がどこにいってしまったのかはわから…
長期滞在者
日日 さめてゆめみる 夢は幻覚であり 白日夢は妄想 蜃気楼は光の屈折現象 物語は空洞で 共有されない記憶域はすべからく錯覚で あるのだろうか 依怙贔屓された視覚におんぶにだっこ ないものねだりの聴覚に平行覚はお手上げ 怠慢な体性感覚に直情的な内臓感覚 統合と乖離をくりかえし 過ぎる よぎる 湧き上がる わきあがる 穿つ うがつ 翳る かげる 煌めく きらめく 導きだされる幾つかの世界を行き来して…
長期滞在者
年末にお節を作りました。いつもは帰省するし、テキトー(がんばらない)だったのですが、義理の母から作ってごらんあなたに全部任せるからと言われました。というわけで、年賀状を書きながら、しかも羊の目によりによって蛍光ピンクを使ったものだから印刷で抜けてしまい、白目になってしまった目を入れながらであります。 最初に作ったのは金柑の甘露煮。爪楊枝で突いてへそを取り、切れ目を入れて、二度煮こぼした後に、種を取…
長期滞在者
ひと頃、岡本綺堂の怪談集に夢中になった。 光文社文庫から出ているものを何冊か買ってきて読み出したら、これがベラボーに面白い。 だが面白いのとは別に、違和感も感じた。 「何これ、リライトものなの?」 文体が新しすぎるのである。 『半七捕物帳』を書いているという印象から維新より前の生まれかと思ったが、調べてみたら岡本綺堂は明治五年生まれだ。 江戸の人という思い込みもあったので余計になのかもしれないが、…
長期滞在者
普段殆ど休みなく働いているので、年末年始はゆっくりと過ごさせて頂いています。とりわけ1年程前に住まいを杉並の静かな環境に移してから、自宅で本を読んだり、調べ物をしたり、少し先のプランについて自由に思考を巡らしたりする余裕が生まれました。 10日ぶりに新宿、四谷の仕事場に行くと、近くで建設中の高層マンションがいよいよ完成に近づいているらしく、購入を希望される方が、現地で内覧をしている姿を見かけます。…
長期滞在者
「風景のある図鑑」連載が終了いたしました。 これからは長期滞在者として、テーマを決めずに絵を載せたり文章を書いたりしていきます。 「風景」と銘打って絵を描いていたため、空間的で、かつ説明的な絵がばかり描いていましたので、今回は、平面的で無計画な絵を描こうと思いペンを取りました。 タイトルは「祝福を与える三匹の鳥」です。 無計画に描いたのですが、新春っぽくおめでたい感じのする画面になった気がします。…
長期滞在者
新年明けましておめでとうございます。 今年もツキイチで書き進めてまいりますので、お付き合いのほどをよろしくどうぞ。 実は先月、投稿できずいろいろ書きたいことがたまっているのですが、なにしろ実家滞在中、あれこれファミリーイベントが目白押しなこともあり、日記形式でだーっといきます。アシカラズ。 2014年11月16日 当年最後のやきものの仕事を一気に片付け、日本行きの飛行機に飛び乗る。 11月17日 …
長期滞在者
「わしゃあ、 このやに すみついちょる だいふくもいじゃ。もう、 かれこれ さんびゃくねん、なにも くうちょらん。 はらが ひついて しょうがないきに あずき おおせ」 (『だいふくもち』より) 我が家は餅つきをしなかったので、近所の菓子屋に頼んで餅をついてもらっていた。年末になると木の餅箱が2つ届き、1つには大小いくつもの鏡餅が入っており、もう1つには長方形の切り餅が隙間なく並んでいた。餅箱はし…
長期滞在者
何度も、何度も父や母の迎えをまった駅。おそらく、もう戻ることはないだろう、その小さな駅のことを今思い出している。 駅前にあったミスドで、よく家族へのお土産を買った。ポンデリングが好きだった父に、弟。母はさて、なにが好きだったろう。ミスドが閉店して、もうだいぶ経つから忘れてしまった。だけど、あの小さな駅前のミスドのことを思うと、親元に帰るという安心感と、どんどん家族から離れていく自分の中に芽生え…
長期滞在者
■1 小学生の頃、僕は絵が得意だった。 田舎に帰った折、親戚のおじさんが若い頃描いたという映画スターの似顔絵(きちんとしたデッサン)を見て対抗心を燃やした12歳の僕は、手近にあった雑誌に出ていた仲代達矢の写真を見てノートに鉛筆でデッサンした。 かなり時間を掛けて、自分では上手く描けたと思ったが、それを見た祖父が 「あかんぞその絵は。眼が死んどる」 と言う。 いやそんなことはない、どこから見ても仲代…