長期滞在者
十年くらい前の話、例のUFO研究家の某Y氏が『カラスの死体を見ないのはなぜ?』とかいう本を書いていて、それが間違って紀伊国屋の生物学の棚にあったもんだから、大まじめな生態学の本だと思って立ち読みした。そしたらカラスの体は死んだ瞬間に一瞬で消えるのだとか何だとか、トンデモなことが描いてある。なんじゃこりゃ、と思って背表紙を見て著者名に気づく。あーあ、もう。紀伊國屋の店員も何を間違えてるんだか。 あほ…
長期滞在者
初めて「お話」というべきものを書いたのは小学4年生の頃。 それはこんな風だ。 ”主人公の「わたし」は醜い女の子で、両親は美しい顔立ちをしているのになぜ、と悩む日々を過ごしている。 ある日「わたし」は思い立って母親のいない隙にこっそりと、「ママ」の化粧水やら美容クリームやらを顔に塗りたくった。 するとどうだろう、見紛うほどの美人に変身したではないか” 「醜い」の箇所を「ブス」、「するとどうだろう」は…
長期滞在者
年末に、写真研究家の鳥原学さんが「日本写真史」という上下巻の本を出版されました。幕末維新から2010年代初頭まで、日本に限定した写真の通史を綴るという今までには無かったテキストです。ぜひ皆さんも読んでみて下さい。鳥原さんは、ぼくよりも一回り年上で20年来お世話になっている方なんですが、あるときぼくに、写真以外の趣味を持つことを勧めて下さいました。 料理など特に良い、と言うのです。 先日この出版記念…
長期滞在者
岡山から関西国際空港へ向かうバスの中で書いている。 ちょうど一ヶ月前に、ベルギーを訪れていた世界的陶芸家のTさんの通訳兼アシスタントとして10日間の予定でうちを出たのだが、そのうち実家から母が入院したとの連絡が入り、急遽帰国を決め、出先からそのまま日本に来たのだった。 陶芸家のTさんとの出会いは、とても強力だった。あらゆる言葉が正直に語られ、あまりにも純粋であるがために、ぼくにとってそれらは時には…
長期滞在者
先日、母がブラジルへ一時帰国した。一週間ほどの滞在中に教員採用試験を受け、母方の祖父の見舞いを兼ねた帰国だった。この秋(ブラジルでは春のことになるが)、祖父が大腸がんを患っていることがわかった。ここ数年、あまり体調が良くなかった祖父だけれど、健康診断などでは特に異常はなく、心配しつつもおじいちゃんなら大丈夫だろうという、根拠のない確信を持っていた。だけど、祖父の病を期に、その確信がぐらりと傾いて…
長期滞在者
ちいさなころからずっと 身体と意識の焦点をはずすと見えてくる世界に夢中になっている その瞬間は 耳のなかに身体が吸い込まれていくような感覚から始まって 自分の中の音だけが鼓膜を震わせながら 世界を出たり入ったりしている 絶えず世界はまわる すぐにはそれがわからないくらい緩慢に そして突然高速で 光が ものが 熱が 私が 世の中のものの全てが 一瞬に溶け込み 混ざりあって 姿を変え 形を変える …
長期滞在者
とくに昆虫好きというわけではないのだが、カマドウマ、マイマイカブリにつづいて、今回も昆虫に登場してもらう。 上の写真は、僕の暗室の壁に架かっている巨大なナナフシの標本である。エスニック雑貨店で買ったもので、あまりの神々しさと不気味さに最初は購入の決心にいたらず、しかしその後数ヶ月煩悶して、やっぱりどうしても欲しくなって買った。写真ではわからないだろうが実は体長30cm近くあって、その巨人ぶりもまた…
長期滞在者
甘くみてたわ、完全に。 最初にヴァネッサ・パラディを聴いたときの第一声である。 音楽院のはなし、ではありません。 専門外の、私にとってなくてはならない存在である、クラシック以外の音楽のはなし。 女優としてのヴァネッサ・パラディは好きではなかった。 パトリス・ルコントの「橋の上の娘」があまりいい印象を残さなかったせいか、他の作品を観ても「これは」というものには当たらなかった(ルコントの映画は好きなの…
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引っ越しをした、という話の続き。 大量の本の移動の際に、昔読んでいた本に再会しました。これまでも転居を繰り返して来たけれど、その度に古いアルバムに見入ってしまったり、昔夢中になってた何かに再会して、荷物の整理作業がその度中断します。皆さんもそういう経験ありますよね。 20年以上前に良く読んでいた二冊の本が出てきました。宮脇俊三の「最長片道切符の旅」野田知祐の「日本の川を旅する」。懐かしくなって、最…
長期滞在者
みなさんこにゃにゃちは。前回ちょっと長くなりすぎたので今回は反省を込めてちゃんと短くスッキリまとめて書こうかと思ったりしています。なので、本来ここで書こうと思っていた、イワン・イリイチとミッシェル・フーコーと高山宏の言語観と貨幣観をつなげて並べて現代にその問題点がどのように引き継がれていて、どんなふうに顕在化しているのか、またその問題は芸術の分野にも明らかに反映されているのですよ、というようなこと…
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≪眠れない夜、地上をやさしく照らしている月を思う。月が照らしている家の一軒にベットが2台並んでいる。2人の子。1人はすやすや寝ているが、傍らの1人は今にも泣きだしそうだ。何かにおびえ、じっと天井の一点を見つめている。彼女は何を見ているのだろう。≫ 私は小学生になっても、自分で部屋の灯りを消してから眠る、ということができなかった。私が布団に入ってから小一時間が経ち、もう寝ただろう頃を見計らい、母が…
長期滞在者
… ないてもないても まだいたむ ふいてもふいても ちがにじむ ひとりできった くすりゆび こばやしのぞみ 8さい (当時の日記より) … 子供の頃の私はひどく臆病だった。 「のぞみちゃんはおもしろいね」って言われるとほっとしていた。 いつも あとひとことを あとひとときを 急いでくしゃくしゃに固く固く丸めて そのちいさな塊を飲み込んでは 乱雑に見えない場所へと追いやって うずたかく積み上げてい…