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3F/長期滞在者&more

中古カメラ遍歴

長期滞在者

負け惜しみでも何でもなく、カメラは中古で買うのが好きである。
26歳で写真を始めたのでもう30年以上いろんなカメラをとっかえひっかえ使ってきたのであるが、今まで新品でカメラを買ったのはコンパクトカメラ何台かだけで、一眼レフや中判等の、「自分の写真」を撮るために使うカメラは昔からすべて中古購入だ。
もちろん安く買えるから、ではある。お金にはいつも苦労している。
だが中古で買うというのは、そもそも最新の機能を有した新品のカメラに惹かれない、ということでもある。
村上春樹の何の小説だったか忘れたが、死後50年以上経った作家の本しか読まない、という登場人物がいた。歴史の審判を経たものしか信用しないというヘンクツな登場人物であったが、ちょっとわかる気がする。
その機能が本当に自分に必要かどうか、カメラだと発売後すぐにはわからない。要らぬ機能に「撮らされる」ことほどイライラすることはないのだ。

そもそも最初に買った一眼レフがニコンFE。そのころはニコンF4とかF801とかのAF一眼レフの時代で、その当時でも時代遅れなマニュアルフォーカスの一眼レフだった。
「最新のカメラなんか買ったら基本を覚えないからそのへんの古い機種を中古で買え」とアドバイスをくれる人がいたのである。最新カメラを買う金との差額はフィルム代につぎ込め、と。
なるほど素晴らしい教えであった。今でもその人に感謝している。

ちょっと話は脱線するけれど、中古好きはカメラばかりではなく、最近はカバンなんかも中古で探す。適度に誰かの使用感が入ったものが好きなのだ。
帆布やコーデュラナイロンの頑丈なカバンは、新品で買ってもどうせヘヴィに使うのでそのうち傷んでくる。というか傷んだ姿を想定してデザインされている、とすら思っているので、ピカピカの状態で使っている期間の方がむしろそのカバン的には不本意であろうと思うのである。
とはいえそれを極端にやってしまう人もいて、もうちょっと脱線を許してもらえるならば、かなり前だがお世話になった職場の先輩カメラマンに、彼が定年で辞めるときに新品の一澤帆布のショルダーバッグを贈ったことがあった。彼は翌日なぜかクタクタになったそのバッグを持ってきて
「どやカマウチ君、君にもらった一澤、帰ってすぐに洗濯機に放り込んで回しまくったんや。ええ具合にくたびれたやろ!」
いやいや、それは違うと思いますよウエダさん(あ、名前言っちゃった)。時間かけて使ってくたびれるから価値があるのであって、洗濯機で無理矢理傷ませるのは・・・・まぁ、もうあなたの所有物ですから自由ではありますが。

話を戻そう。中古カメラの話であった。
最初に買ったレンズはニコンの標準ズームである。これがシャープだが、諧調もへったくれもなくカリカリで、写ったものの奥行き感が全く描写されない素人目にもわかる酷いレンズだった。3か月も使わずに買った中古屋に売りに行き、当時サードパーティレンズの名作と評判だったシグマ28mmF1.8ASPHERICALトキナーAT-X90mmF2.5マクロ(もちろん2本とも中古)を買った。この2本は本当に良いレンズで、特にシグマの方は新品で買っても3万円、中古だと1万5千円くらいから買える安価なレンズなのに、当時世界一明るい28mmであり、描写も値段も話題になっていた。僕がシグマとトキナーが好きでカメラメーカーの純正レンズをあまり信用しないのは、写真を始めた頃のこの経験が元になっているのだろう。

その後写真を仕事にするようになってもシグマ・トキナー好きは変わらず、シグマの広角レンズとトキナーの標準ズームで仕事をした。途中でカメラをニコンからキヤノンに換えたが、同じセットでレンズを買い直したくらいだ。
特にキヤノンのペリクルミラー(ハーフミラー固定式、撮影中のファインダー像消失がない)一眼レフ、EOS-RTにシグマ28mmの組み合わせが大好きで、仕事でも自分の写真でも使いまくっていた。仕事中にレンズ交換の際、誤って地面に落として後玉が壊れてしまったが(よく機材を落とす男だな)、その日にその足で中古カメラ屋に同じレンズを買いに行ったくらい、この28mmは気に入っていた。
結局このレンズはニコンMF用1本、キヤノンAF用2本買っており、同じレンズを3本買ったのはさすがに今までこれしかない。

(ニコンFE +シグマ28mm F1.8)
(キヤノンEOS-RT + シグマ28mm F1.8)
(キヤノンEOS-RT + シグマ28mm F1.8)



同じカメラを買い直した、といえば、コニカ・ヘキサーというコンパクトカメラである。
シャッター速度が1/250秒までしか使えないという不便に嫌気が差し、一度売ってしまったのだが、ついている35mm F2レンズの描写が抜群で、売ったものの恋しくなって一年も待たずに買い直した。
コニカと言えば安い方のコンパクトカメラ、ビッグミニ。これはF3.5のものとF2.8のものがあるが合わせて計5台使い潰している。裏蓋の開閉部にフレキ配線が折り込まれており、開閉のたびに少しずつ劣化して壊れやすいという致命的設計ミスのあるカメラだったが、小さくて使いやすく、コンパクトカメラでは珍しく露出補正機構(±1.5EV)があるので重宝した。状態の良い中古が4000〜5000円で手に入り、安価だが実は描写はかなり優秀で(特にF2.8の方)多少軟調ではあるが、暗室で3号印画紙で六切プリントすればちょうど良い画になった。

(コニカ・ヘキサー-35mm F2-)
(コニカ・ビッグミニF -35mm F2.8-)



中古カメラといえば、中古も中古、新聞社のロッカー整理で処分対象になったというボロッボロのニコンF2を、新聞記者の知人が救出して「使う?」と持ってきてくれたことがある。このF2の歴戦のボロボロ具合がなんとも勇壮で、ありがたくいただくことにした。
ちなみにこの記者である知人は、勤めていた支局の暗室を閉鎖するというときにも声をかけてくれて、引き伸ばし機や大量の暗室用具も僕の家に引き取った。不法行為かもしれないので名は明かさないが、ありがとう。まぁ、もう時効かな。

新聞社から来たニコンF2は長く愛用し、多くのフィルムカメラは処分してしまったがこのF2とEOS-RTは今でも家にある。

(某新聞社のロッカーから救出したニコンF2。ファインダーは後から交換したので色が違う。)
(EOS-RT。シャッタータイムラグがほとんどない瞬発カメラ。フィルム・デジタル合わせた歴代EOSの中で一番かっこいいデザインだと思う。)



デジタルカメラに移行するのは僕は遅く(仕事ではそれまでも使っていたが)2011年頃である。自分で初めて買ったのはシグマSD15というちょっと特殊な一眼レフだった。
RGB各色センサーを重ねて配置(FOVEONセンサー)した特殊なカメラで、450万画素(シグマは450万画素×3層=1350万画素と言い張っていたが、出来上がる画は450万画素である)しかないのに、平気でA3ノビまで伸ばせた。凄いセンサーである。このカメラで撮られた(僕的)名作は多い。

(シグマSD15+シグマ30mmF1.4)

このカメラの画素数を増やして1530万画素(シグマ的には4600万画素)にしたのがSD1(merrill)というカメラである。これも中古で購入した。11万円という、僕にしては高額を払ったカメラだ。
買ってからショット数を確認したら107コマしか撮られていなかった。このカメラは癖の強いカメラで、精細描写に徹し、運動神経的なものは完全に捨てている(感度は上げられない、連写は出来ない、読み込みは驚くほど遅い)。前の持ち主はこれに耐えられなかったのであろう。SNSで「107コマしか撮られていないカメラを買った」と書いたら、友人が「煩悩の数にも足りない」と名言を吐いた。
煩悩の数108回目のシャッターは僕が押した。

(シグマSD1 merrill+シグマArt50mmF1.4)



十数年使ってシグマSD1merrillは耐用年数が過ぎたので最近一式手放し、今はニコンに戻っている。
ニコンDfという、フィルム時代のカメラのデザインを模したような懐古主義的カメラを使っているのだが、懐古デザインが好きというよりは、感度ダイヤルと露出補正ダイヤルが軍艦部に出ていて、ファインダーを覗かずに感度と露出設定ができる点が気に入っているのだ。
夜暗いところで撮影することが多いので、暗さに応じてまず感度を決め、露出補正は1~2段暗く設定しておいて、あとはプログラム露出でRAW撮影する。見かけはアナログだが、全くデジタル的な撮影方法である。
そのメーカーのカメラが1台しかないと、なかなかレンズを増やす勇気が持てない(そのカメラが壊れたら、揃えたレンズ群がすべて無駄になる)のでニコン用のレンズは35mmと50mmしか持っていなかったのだが、最近ニコンのカメラを使っていた僕の父が高齢になり、こんな重いカメラもう使えん、というので僕が譲り受けた。D800という十数年前の機種であるが、今でも充分使える性能である。ニコンのカメラが増えたということは、安心してレンズを増やせるということだ。
父から来たセットのうち、自分では使わないな、と思うレンズは容赦なく売り(親不孝者)、その売価でトキナーの広角ズーム(AT-X20-35mm F2.8)を購入した。
フィルムカメラ時代の古い製品だが、これがなかなか好きな描写のレンズで、最近はこのレンズとの組み合わせでばかり撮っている。丸い先端のデザインが気に入っている。なんだか可愛い。写りが鮮鋭すぎないのも良い。

中判カメラやライカの話は省略したけれど、それはまたいずれ書くかも。



(ニコンDf + トキナー20-35mm F2.8) 

(レンズ先端の不思議な丸さと、ズームリングの斜めのゴムローレットの鋭さが良い。)


・・・・・・

[ 追記 ] 2/17

今月の原稿はかなり早く書いたのですが、2月あたまに書き上げて、レビュアーの藤田さんに渡して、数日後の2月8日。
なんと、このニコンDfとトキナー20-35mm F2.8を落下させ、重傷を負わせてしまいました。
マウントがモゲる大惨事。ボディ修理見積もり、驚愕の10万7000円。
涙も出ません。
さよならニコンDf。あなたは良いカメラだった。直せる資金力がなくてごめんね。

(バヨネットマウントがレンズの方についてきた・・・・涙)

[ 追記の追記 ] 2/19

ニコン修理センターでの精査の結果、半額以下の4万円強で修理可能と判明しました、とわざわざ電話をいただき、修理することにしました。
二転三転、またこのカメラとのつきあいは続きます。慣れ親しんだ機種ですから、直せることがわかって良かったです。

カマウチヒデキ

カマウチヒデキ

写真を撮る人。200字小説を書く人。自転車が好きな人。

Reviewed by
藤田莉江

しばしば、なぜカマウチさんはそんなにもカメラを落とすのか?という話題が界隈にてのぼる。

つい数日前も、その話になった。
そうですよねぇ、とか言いつつ、「いや、藤田さんも壊してるイメージですよ。まぁまぁ落としたり壊したりしてますよね。」的なツッコミをされ、「ほら、あのときのアレとか、それとか、そのレンズとか、今このネジの外れたコレとか。」と、かわいいひとにニコニコしながら立て続けに言われ、ちょっとしょんぼりしてしまった。

確かにここ一年、カメラを石畳に落としてレンズフィルター割ったり(奇跡的にレンズは無事)、オートコードの巻き上げをへし折ったり、落としてへこませたり(多分不具合はない)、いつぶつけたかも覚えてないけど80-200の長玉にえくぼを作ってピントリングが回らなくなったり(修理不可能の宣告)、カメラのネジを無くして底の金具がガチャガチャいったりする感じになっちゃったり、一年にこんなにやったのは初めてだよ、というくらい、確かに壊したりいためたりさせた。
※メイン機材であるα900のミラーが吹っ飛ぶのはわたしのせいではないので、ノーカウント。

ちょっとこれは襟元をたださねばならないのかもしれない。

カメラ、思えば2018年にα900①(3台持ってる)を落としてミラーをズレさせたり、ストラップが切れてアスファルトに叩きつけてしまったSONYのコンデジ、RX100-Ⅲの背面液晶がふっとんだり(でも使えてたからそのまま当分使ってた)そんなこともあったな。

そのコンデジはまだ使えるけれど、流石に不便なので同じシリーズの一つ新しい型を買い直した。

α900のミラーが吹っ飛ぶのは製造時使用された接着剤の弱さによる持病と言われてるのでどうしようもないのだけど、EVF嫌いにてα900を手放す決断ができない。

落としても壊しても、直るものなら直してもらってまた使う。
だめそうなら中古で動くものを探す。
いつまでこれをやれるかはわからないけれど。
慣れ親しんだ機材というのはやっぱりそうなんですよねぇ。

なぜ落とすのか?の問いは、使い慣れた機材は息を吸うように使うから、無意識に自分の身体の一部のように使うから、だからあえて持っているという感覚を失い、掴むことを忘れて落としてしまうのだろうか。。。
そんな都合のいい(?)解釈をしつつ、いやいやそれでも。
ちょっと自分のこの一年は目に余る壊しっぷりだわ、と、カマウチさんのことなど何も言えないことに気付かされたのであった。

わたしも再起不能宣告をされた80-200mmを買い直すので、そこそこの出費が予定されてしまいました。
欲しいレンズはほかにもあったのに。めそめそ。

カメラは落とさない、ぶつけないようにしましょう。はい。

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