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3F/長期滞在者&more

消えてしまうメディア

長期滞在者

毎週教えに行っている学生たちと、Instagramのストーリーを使って「作品」ではなく、自分をプレゼンテーションする短い動画素材を作る実験をしています。

もともと、SNSの趣味的な投稿というのは、自分にとっては仕事の一部であって、プライベートで投稿(プライベートっぽく見せる投稿はある)したことがない事情もあって、インスタのタイムラインに保存されるタイル状のサムネイルこそ僕にとっては、情報発信の重要な部分だと思っていました。

それが、アーカイブ化されない24時間後に消失するコンテンツに注目が集まるということが、長い間理解できずにいました。

実際にこの世界を観察すると、わずか数秒間のコンテンツとはいえ、瞬時に閉じてしまう投稿、しっかりと最後まで見届ける投稿とに分かれることに気がつきます。

クリエイターとしては、逆立ちしたって、前者に甘んじていて良いわけがありません。

そこに注目して、どのようにしたら、途中でブチっと切られずに、最後まで付き合ってもらえるのかを考えてみようと思い立ったわけです。

数秒間の中で、目を留めさせることができる力のある写真をつくる、簡潔なことばでより印象に残るキャプションを添えるとはどういうものか?

一足早くダウンロード配信の世界に切り替わった音楽などは、旧来のCDジャケットのデザインでは力がなくなり、ビジュアルの使われ方が大きく変わっていったし、そもそも「試し聴き」機能の普及で音の作り方や、曲順や構成も大きく変わっていると想像できる。

そして、ぼくが知らなかった(だけ)のもうひとつの写真表現の一端に触れたような気もしました。

極小の動画素材においても同様で、従来のポートフォリオ作りのように、30枚程度のボリューム(それでも、厳選された枚数であることが望ましいとされてきた)を暗黙の了解事項としてきた私たちにとって、わずか5、6秒に何を残し、何を捨てるのかを考えるのはとても難しい。

ということを念頭に、みんなで様々なストーリー動画を見たりしながら制作をしてもらいました。さすが若い人たちの応用力は素晴らしいもので、わずか4、5日のうちに、素晴らしいプレゼンテーションが続々と集まってきます。

動画と静止画像を細かく切り替えながらまとめるというのは、今日のデジタルカメラの機能を考えると当然予想がつきますが、そればかりか手書きのグラフィックや、アニメーションなどを効果的に使いながらまとめてくる者、音素材を効果的に使っている者、私の予想をはるかに上回るレベルの高いものばかりでした。

ストーリーは、今や若い人たちの日常的なコミュニケーションツールのひとつ。日頃から慣れ親しんだ環境で水を得た魚のように、自由に遊びまわる彼らがとても眩しく見えました。

篠原 俊之

篠原 俊之

1972年東京生まれ 大阪芸術大学写真学科卒業 在学中から写真展を中心とした創作活動を行う。1996年〜2004年まで東京写真文化館の設立に参画しそのままディレクターとなる。2005年より、ルーニィ247フォトグラフィー設立 2011年 クロスロードギャラリー設立。国内外の著名作家から、新進の作家まで幅広く写真展をコーディネートする。

Reviewed by
玉越 水緒

instagramのストーリーは、コンテンツ自体が数秒間しか続かないという意味でも、アーカイブ化されないという意味でも、刹那性を具現化したような機能。メディアに触れる時間の基本単位がどこまでも細分化される中で、クリエイターやアーティストの表現技法はどう変化するのか。

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