ハンミョウの造形は突き抜けている。
タマムシ以上ではないかという極彩色に、細くともバネの効いていそうな脛の長い脚、ギョロリと飛び出した人相の悪い目。そして何よりグッとくるのが、三日月形にカーブした大きなキバだ。これは肉食昆虫の口に取り付けるにはあまりにも「ベタ」で、もし「空想で獰猛な虫描いてみろ」と言われてこれを出せば、創造力が無いと思われても仕方ないレベルだ。こんなB級パニック映画的なキバ無いよと思いきや、どっこい神様は意外に素直な好みをお持ちらしい。
実際、ハンミョウはパニック映画のモンスターよろしく、この上なく機能的な殺戮マシーンだ。長い脚を素早く回転させて、安定した姿勢のまま敏捷に地面を駆け回る。そして小さな昆虫やミミズを見つけると大アゴでガブリ、だ。獲物を追うためではないにせよ、翅を広げて短距離を軽々と飛び回る三次元的な動きもあるから、彼らがもし人間サイズだったら我々は今こんなに威張った顔をしていられなかったはず。
小学生のころ、家族旅行先のどこかの旅館の庭園で生まれて初めてハンミョウを見、数匹捕まえて持ち帰った。広くて浅い虫かごに入れて、ミルワーム(ペットショップで売っている、エサ用の小さい芋虫みたいなの)をぐちゃぐちゃと噛み砕いて食べる様子を飽かずに眺めた。お香のようなエキゾチックな体臭を持っていることもその時に知った。
それ以来、近縁の地味な小型種は東京のど真ん中の小さな公園で見かけたけれど、この色鮮やかなハンミョウには出会っていない。私にとっては幻の虫になっている。