ルームナンバー000

第3期(2012年6月-7月)

本日入居日。
この話をいただいて真っ先に頭にが浮かんだのが、
数年前に滞在したパリ5区にあるアパートメント。

大阪のとあるカフェ・ギャラリーで
「もうすぐフランスにいくんだ。」という話をしていたらまさかのタイミングで彼女は入ってきた。
「あなたも?実は私パリに住んでいて今は一時帰国中なんだけど、よかったら向こうでまた!」
そのコトバはまるで漫画のモクモクした吹き出しのようにひとつの雲となって、僕をパリまで運んでくれた。
向こうで落ち会い、再び彼女が一時帰国するときに
「日本に帰ってる間、よければ。」
って1カ月ほどそのアパートメントを間借りしたのだ。

滞在する場所も正確な日程も決まっていない一人旅。
「地球の歩き方」はもはや聖書より大事な「地球での生き残り方」みたいだった。
簡単なあいさつくらいしか知らない僕に彼女はいくつかのフランス語を教えてくれた。
もし彼女に出会わずに暴漢に襲われていたら、きっと命乞いするときも「メルシー!」とか叫びながら死んでいったことだろう。
そんな彼女にどうしても教えてほしいと、はじめてあいさつ以外で教わったのが
「写真、撮ってもいいですか?」
ボンジュール、メルシー、シルヴプレ、オルヴォワ。。。
この次に多く使ったコトバかもしれない。
呪文のようなこのコトバにみんな笑顔で応えてくれた。

住んでいる人じゃないと知らないような場所にも連れていってくれた。
ブレッソンのギャラリーが改装中でいけなかったことは少し心残りだったけど、
パリ写真月間の真っただ中に偶然訪れることができたのはそれもまた奇跡みたいなタイミングだった。
そこから「生成りとトゲ」みたいなプロジェクトがスタートするのだ。

実はこれを書きだす3日ほど前までここのアパートメントの滞在期間は1カ月だと思っていた。
実際は2カ月の滞在。。。この2カ月って実に絶妙で巧妙?な期間だ。
うわべのコトバだけで綴ったり付き合うには長すぎるし、ボロが出てくる。

ちょうどパリの滞在期間も2カ月だった。
最初の1カ月はユースホステルを転々としながらの旅。
石作りの建物、教会のステンドグラス、そしてあのでかい鉄塔。
見るものがすべてが新鮮でなんでもかんでもシャッターを切ってた。
それは記録としては大切なものだったのかもしれないけど、
ふと、自分じゃなくても撮れるんじゃないか?。。。という疑問が沸いてきた。
でかい鉄塔はすでに歴史としても形としても完成されたでかさを持っている。
その時の自分にはそのあらゆるでかさを越える側面を写真で撮ることができないような気がした。

残りの1カ月は冒頭に話したプラス・モンジュにあるアパートメントでの暮らし。
パリのアパートメント暮らしなんて言うと華やかでこじゃれたイメージを思い浮かべるかもしれない。
でも、実際は食費を切り詰めるのに必死で
スーパーで買ったバゲットとチーズとソーセージとオランジーナを何日もかけてチビチビ食べてはしのいでいたし、
5ユーロのトルコケバブと7ユーロのベトナムフォーが最高のごちそうだなんて
もはや日本にいる時よりフランス料理が遠い日々だった。
(それがほんとにうまくて次同じような機会があったとしてもきっとまた同じものを食べてると思う。)
それからはそのアパートメントを拠点に人と路地裏ばかり撮っていた。
「よく、なんともなかったね。」って言われるくらいいろんな人に声をかけ、時には暗がりの道をさまよい歩いた。
路地裏には表には見えない「人の本当の生活」が溢れていた。
雑誌やTVで植えつけられたパリのイメージなんてほんの一部だ。

きっと1カ月で帰っていたらそれは「PARIS」って書かれたケーキのネームプレートだけかじって帰るようなものだったと思う。
そこに行ったという事実は残るけど、それは表向きの華やかさだけでおいしい果実やクリームの味もわからず、
スカスカのスポンジにも気づかなかったと思う。
結局のところ残りの1カ月は特別な場所や物はほとんど撮らず、
その代わり特別な人や特別な時間を撮った。
今思えばどこに行っても変わらない自分の本質と向き合うための貴重な時間だったと思う。

だからこのアパートメントでの2カ月という期間は
良くも悪くも自分の本質をさらけだす日々なのかもしれない。
僕自身、このアパートメントに住む自分を含めた住人を
客観的に見てみたい気がする。

できれば名前のないアパートメントで名前のない部屋で名前のない僕で泊まりたい。
真っ白な部屋でまだ見ぬ他の住人や窓から外に見える人たち、
そのすべての人たちとフラットな関係でありたい。
ノックは無用で入ってきてもらってもいい。
少し暑くなってきたしここではなるべく裸で生活したいと思うのだけど、目障りだったら
「パンツくらいはきなよ。」って教えてあげてください(笑)

住んでいくうちに姿を変えていくかもしれないけど、
今のところこのアパートメントは奇妙にクネクネと曲がりくねって見える。