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《画家と7人の肖像》ファッションモデル 浅利 琳太郎

画家と7人の肖像

彼はきっと、あっという間に「知らない人」になる。

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Photo by Kazuki Hiro

このコラムを打っている最中、私は31歳になった。

ロンドンの15時に日本は24時を回り、私より先に私の誕生日を迎えた人たちから次々とお祝いの言葉が届いた。23時59分、送信ボタンに手を触れぬよう秒針を見つめる、あの1分間を知っている。誕生日の祝いは、私という存在が彼らの日常に忘れられていない証拠のようで愛おしい。少しだけわがままを聞いてもらえるような心地で誕生日を過ごすのは、「いい大人」になっても変わらないのだった。もう数年会っていないのに、バイト先が同じだったというだけで毎年誕生日だけは簡単なメッセージを送る人がいて、それはまるで毎年記憶を更新する作業のようだった。褪せた壁画の修繕のように。それは一つの「努力」なのだと思った。

私は今、3ヶ月前のことを思い出している。それすらも頭の中では水彩絵の具で記憶を描き起こすような曖昧さなのに、十数年前の記憶など何分の一、何十分の一覚えていられるんだろうか。

浅利さんと食事したのは東京を一望できる高層レストランだった。
私が決めた。知らない人と初めて会う場所。そして、最後に会う場所。

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Photo by Kazuki Hiro

彼は19歳だった。ファッションモデルとして持ち合わせたすらっとした佇まいと表情の中に充足した落ち着きがあり、遂に「最近の若い人は大人っぽいんだな」なんて思う機会が私にもきてしまったのだ。若さも老いも語れぬ30歳の夏に振り返る我が19歳など、ノスタルジーな気分しか寄越してこない。まだ、心理学の学生をしながら塾講師のアルバイトに明け暮れていた頃。画家になるなんて微塵も思っていなかった歳。もう別人の、多分、私だった人。

あの頃に接した「おとなたち」のことなんてもう、実際ほとんど忘れてしまっている。彼が私と同じ歳になった頃には、あの高層階の景色も、ひとまわり歳上のしがない画家のことも、古ぼけた水彩画のようになってるだろう。

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Photo by Kazuki Hiro

全然知らない人を描こうと思っていた。

というより、「肖像画を描く」という入り口から誰かを知ってみたかった。既に決まっていた肖像画モデルの顔触れを眺め、漠然と20代前半の男性にしようと思った。これまでどれほどの実績を積み、今はどんな世界で生きているか。どんな性格か。顔を合わせるまで余計な情報は入れないでおこうと思った。

そんな「枠」を企画内に設けてから1ヶ月間は、ざっくばらんにInstagramを眺め、感覚でフォローするなどした。時には街のカフェで、友人が「あの人かっこいい」と騒ぐのを興味深く観察したり、お洒落な路地ですれ違った人に数秒視線を送ったり、普段触れない雑誌をパラパラとめくったりしていた。考えてみたら、そんな風に「人間達」を眺めたのは初めてだった。誰を描こうか、誰が絵になるか。ああもしかして、世の男性による軟派とはこういうものなのかなど。妙な価値観を自分の中に生み出してしまった。

出身地の北海道に今すぐにでも帰りたい気持ちなんだと数回口にした後、眼下に広がる東京の夜景を無心に写真に収めていた。経歴を含めた自己紹介が大半の時間を占め、制作の具体的な方向性があまり定まらないうちに食事を終え、私はホットコーヒーを追加で注文した。しばらく続いた沈黙の後、ハッと思い立ったかのように「ダイヤモンドダストの中に描いてください」と彼は言ったのだった。

東京を見下ろしながら、北海道の湖沼に彼の心は降り立っていた。帰りたいのだろう。それでも旅立ってきたのだ。輝きのネオン街に。そして彼は、駆け抜けるように別人になっていく。

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Photo by Kazuki Hiro

私を知っている人間ならともかく、知り合ったばかりの画家の絵のモデルに時間を割くということに、ファッションモデルとしてのキャリアに何の意味があるのか。そんな渇いたフィルターを「意識の高い」若者たちがすり抜けていく中で、彼は興味深く創作に乗った。自分で絵画モデルを募っておきながら、浅利さんの関心のベクトルはとても珍しいものだと思った。

意味あるものになるか、ならないか。全てこれからの私次第で、いつか浅利さんに「この人に描いてもらったことがあるんだ」と、少しでも自慢できるような画家になれたら良い。それが出来なかったという結末ならその頃、私の夢も展望も信条も何もかもが死を遂げているということなのだ。そんなこと。考えられない。それが31歳であり、「いろいろやってきた」と「まだまだやれる」の間にいるのだ。誕生日に異国のカフェで一人打ち続けるコラムも、孤独を感じる展示活動も、意味あるものにしたい。するんだ。彼が興味本位で手にした、宝くじのような絵画。それでいいよ。だって、夢があるじゃない。

では彼の「いつかの19歳」に、鮮明に残る肖像画を贈ろう。

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Painter: Maika Kobayashi
Material: Acrylic color/ Wooden panel / KENT paper

Model: Rintarou Asari
Photographer: Kazuki Hiro
Corporation: PAKUTASO
Flyer design:Tsubasa Motohashi

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11月2日(木)のオープニングパーティーを経て、ロンドンでの個展が始まりました。

Maika Kobayashi Solo Exhibition in London
2-26 November 2017
Sundays 11am – 2pm
or by appointment
Private view Thursday 2 November 2017

Shipton Street Gallery
Shipton Street,
London, E2 7RZ
Tel: 020 7729 3739
Email: admin@shiptonstreetgallery.co.uk

GUEST ARTIST : KUNIKA (Sweets Artist)
Cooperation : Kazuki Hiro (Photographes)
Sounds: Nekodaruma & SHINJI-coo-K [MoNoGatari]
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浅草六区ゆめまち劇場 『Blood』

観に来てください。私はこの公演の為に帰国したいくらいですが、ロンドンの個展最終日とかぶってしまいました。
私の代わりに、ぜひ。

‪11月25日(土)13時〜/18時〜‬
‪11月26日(日)12時〜/17時〜‬

2018年カレンダー予約開始
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現在Twitter @maikyarianにて更新している惑星シリーズデザインで、2018年1月はじめのカレンダー製作が決定しました!既に発信済の地球・月・火星・水星・木星・金星に加え、11月末までに公開される土星・天皇星・海王星・冥王星・太陽の5作品、更にカレンダーにしか収録しないシークレット作品1作品を含めた全12作品で構成されます。
作品更新中のため、これから発信される作品を見てから購入を検討される方も、既に購入を決めている方もいると思います!来年のスケジュール管理のお供に、ぜひご検討くださいませ。

発送開始:12/25(月)
販売数:150部 ※お一人様数部購入いただいても構いません。
サイズ:A3縦型
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スマートフォンケース
《iPhone8/8 Plus/x》の発表に伴い、対応のハードケース34種類と手帳型ケース5種類の予約を開始しました!
その他iPhoneシリーズ、Xperia・Galaxy・AQUOSシリーズも引き続き取り揃えております。

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ミラーだけじゃない、ICカードやSIMカードも収納可能
SuicaやPASMOなどの交通ICカードや、電子マネーカードをピッタリ収納可能。 自動改札や買い物もスマートにできます。電磁波干渉防止シートも付いているので、自動改札でのエラーを防ぐ優れもの。 おまけにSIMカード入れも、ケース裏面についているので、SIMフリーのiPhoneをお持ちの方は、ちょっとした海外旅行にも便利です。ミラーは特殊ポリカーボネート製を使用しています。【対応機種】iPhone7・iPhone6/6s・iPhoneSE/5/5s

スマーフォトンケースは以下の機種に対応しています。
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iQOS(アイコス)は革新のたばこヒートテクノロジーにより大ヒットしている紙巻きたばこの代替え品です。 こちらはそんなアイコスをオシャレに演出するアイコスケース(カバー)となります。※IQOS2.4 Plusにも対応しています。転写プリントの技術により擦れや熱に強く、出し入れの多いハードな場面でも色落ちしにくくなっています。プリントについても正面しかプリントしていない製品も多い中、側面プリント技術によって、側面までプリントを施すことによりアイテムの一体感がより増しています。ヘビーにアイコスを使用する方にありがちな本体のプッシュボタンが故障してしまうのを、 保護してくれるプッシュアシスト機能を搭載しています。側面のインジケータはスリットがあるため電池残量も確認していただけます。充電もケースをしたまま可能です。※アシスト機能で完全に故障を防ぐわけではございません。
■対応機種
IQOS(アイコス)/ IQOS2.4Plus(アイコス2)

パスポートケース
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チケットホルダーなど機能性にも配慮
パスポートの収納だけではモノ足りないのでチケットホルダー、カードホルダー(2枚)、ペンホルダー、ストラップホール(上下)が付いています。またスナップにより閉じた状態がキープできるよう工夫しています。サイズ:縦150 × 横210mm 材質:PUレザー インクジェット印刷・UVインク加工

小林 舞香

小林 舞香

画家・イラストレーター。アクリル絵の具を使用し、手描きによる精密な写実画を特徴とした絵画を中心に作品を展開している。2009年よりフリーでの活動をスタートし、翌年に初のNY個展を開催。木製パネルに貼られたケント紙に絵の具で描く以外にも、壁画や舞台美術、ファッションデザイン、グラフィックデザインなど手法・表現は多岐に渡る。個展やイベントをベースにオリジナル作品を発表しながら、企業とのコラボレーションでイラストレーターとしての活動の幅も広げている。2017年11月ロンドン個展、12月にアムステルダム個展を控えているが、今回のコラムでは2018年4月に開催される銀座での個展に向けた制作を綴っていく。

Reviewed by
黒井 岬

この肖像画にまつわる舞香さんの文章を読み返して、東京らしいお話だなと思った。これまでと一味も二味も違う絵の制作を決意した一人の画家と、上京しモデルとしての道を歩む若者による肖像画がここにある。その人は故郷の光の中に描かれた。
東京の夜景がこうも切ないのはどうしてだろうね、と人と話をしたことがある。その人は「こんなにたくさん光があってこんなにたくさん人がいるのに、みんな一人ぼっちな感じがする」というようなことを言った。
だって、夢があるじゃない。と舞香さんは言う。ともするとふわふわとして聞こえる夢という言葉を、強い意志を持って綴っている。時が経って再びこの絵を振り返る時、画家と描かれた彼の目に、どんな光が映るだろう。

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