きこえたら

第6期(2012年12月-2013年1月)

「なんも聞こえないよー」

そこに立って何か聞こえるみたいにしてみて、とわたしはカメラを構える。
12月の最初の土曜日、とても風のつよい日だった。
3時過ぎ、片瀬江ノ島駅のホーム。日はもう傾き始めている。

そう、なにも聞こえるわけがない。

たとえば
きこえないものがきこえるかもと思ったら
小さな耳はたちまちうさぎの耳になる。

たとえば
みえないものがみえたような気がしたら
キセキでも、こわくても、不思議でも
きっと誰かにそれをおしえたくなる。

たとえば
さわれないものにさわれるようなことがあれば
それはおそらく こころ打ち震える大きな事件。

「ねえ、もういちど。
 聴こうとしてみて。
 なにか、聞こえてこない?」

こんどは背伸び。
近づけてく耳。
視線はスピーカーを射す。
まっすぐになる背。
ととのえる呼吸。

そして、そうっと目を閉じる。

きみがふたたび目をあけたとき
すこし世界があかるくなった。

きみの動作のひとつひとつがきれいで
おもわずわたしも足を半歩、近づける。

「ねえ、きこえる?」

そのとき、きみに聴こえるのは
きみだけに贈られる恋人の言葉かもしれない
青の時代を突き抜けたラッパの音色かもしれない
キラキラのともだちとその中で笑うじぶんの声かもしれない
いつ帰ってくるの、とたずねるお母さんの声かもしれない

なにもきこえなかったかもしんないんだけど。
今のお願い、ただのわがままだったんだけど。

「ねえ、きこえる?」

明日好きになるかもしれない色を想像して眠りにつく。
今日を何かいいことありそうな日にするためのスキップ。
首がいたくなっても家につくまでに流れ星が見れたらきっとうれしい。

わたしの旅は雨だっていい。
わたしはいつも耳をすましてる。