海の匂い、雪の匂い

第6期(2012年12月-2013年1月)

春みたいな海だった。

「どうなったら『復興』なんだろうね。」

「あそこに“お父さん”の家があったんだ。」

エリという名前と教えてもらった。顔を埋めたら懐かしい匂いがした。

海と空が溶けていた。


大阪から12時間。初めて郡山行きではなくいわき行きの深夜バスに乗った。
バスの予約サイトには赤文字で『当面の間「広野インター~浪江駅」間を休止し、「いわき駅」までの運行となります。』と注意書きが入っている。
一緒に温泉に入って海鮮丼を食べに行こうと約束をしていたはるえさんが迎えに来てくれる。
温泉がまだ開いていないと聞いて新舞子の海へ行く。写真を黙々と撮っていると陽が少しずつ高くなって、1月の福島じゃないみたいにあったかくなった。
髪を短く切ったはるえさんの耳には鮮やかなトカゲのピアスが揺れていて、私はそれをとても良く似合うと思った。

新舞子の海に続く道の木の柵が津波の後そのままで「これはもう諦めているとしか思えないよね」「細かいところは後回しだって気質が見えるね」と話してゲラゲラ笑った。
笑うことはきっと不謹慎なのだけど、とも言いながら。
はるえさんの同級生が働いている喫茶店でモーニングを食べて(そこは珈琲サイフォンで珈琲を淹れてくれるお店で、そしてトーストがとても厚くて美味しかった)、極楽湯へ。
700円で行ける天国。

そして楢葉へ。
何も、片づけられていない場所。
電車が通らなくなった駅。

「最近一番行きたい場所はウクライナ。チェルノブイリを見たい。」
「たくさんの情報があったけど、結局は他人事で。何が本当だったのか見ないとわかんないよね。」
「うん。わかんない。」

海鮮丼の上をたいらげて、豊間の海へ連れていってもらう。

「長生きしたいな、って思うようになったんだ。どうなっていくのか最後まで見たいから。」

私はこの海がとても好きだ。
静かなのに激しい。
ゴールデンレトリバーのエリに会った。
1月なのにサーフィンをしている人たちがたくさん居た。

海と空が溶けるのを2人で黙って見ていた。
はるえさんの吐く煙草の煙が羨ましくなって、吸えもしないのに1本貰った。

夜。はるえさんが働くお店の片隅でスプモーニを頼んで飲んだ。
働く姿を見れて良かったと思った。その人と現実を結びつけている部分。
根っこ、みたいな。
はるえさんをはるえと呼ぶようになっていた。

そして磐越東線の最終電車に乗って郡山へ。
次の日郡山は大雪だった。東京も大雪とニュースが伝えていた。
海から生まれた風が山にあたって雪を降らす。
空に境界は無くて繋がっている。
すべてがそうであれたらいいのに、と想う。

ある冬の一日の話。