小数点以下の宇宙

第8期(2013年4月-5月)

3.14 という数字が好きだ。

初めて円周率を教わった時、その数字が永遠に続いていくいうことに
とてつもない驚きとそういう存在に対しての畏れのようなものを感じたのを覚えている。
子どもの僕には何でもできるかのように見えていた大人たちがこぞって考えてみても、
その答えは見つからないと言っていたのだ。
自分などには到底理解の及ばない存在を知って、
とにかくワクワクした。

でもそのあと、「永遠」がなんとも曖昧な形で残った 3.14 という数字と
宿題やらテストやらでウンザリするほど付き合っていくことになるのだが、
その小数点以下の2つの数字は、
ふとした時に初めの驚きや畏怖の感情を僕に思い出させてくれた。

随分経ってから円周率が 3 になったりしたこともあったけれど、
僕はその頃の子どもたちは計算が楽でいいな、なんて考えもしなかった。
むしろ、数字がスパっと割りきれてしまうことで、
僕が感じてた驚きや畏怖みたいなものをいつしか忘れていってしまうんじゃないかと
少し可哀想に思ったくらいである。

すべてがすっぱりと割りきれるものでできている世の中も悪くないけど、
円周率みたいにどこまで行っても辿りつけないものが存在する世の中の方が、
まだ誰も知らない世界を想像できる分とてもワクワクする。
もう全部分かりきっているんです、なんてやっぱりつまらない。

一見無駄に見えるような曖昧さは、
時に僕らを豊かなものへ導いてくれている。
算数の計算をしながら、その先に延々と広がる宇宙に想いをよせられる方が、
よっぽど豊かでゆとりがある。
そういう世界を見え隠れさせる 3.14 という数字の寛容さと優しさを、
僕はとても好もしく思っている。

いまでも 3.14 という数字を見ると、
ほんの時々だけど、
終わりの見えない宇宙のことや、
まだ誰も気づいていない世界の美しさのことを想うのである。