木琴を叩くように泣いた

第9期(2013年6月-7月)

木琴を叩くように泣いた
 朝、校門をくぐるずいぶん手前で、私の影が空に落ちていくのを見た。よく晴れた空の、鈴の音のような白い雲の隙間、どこからでも転落しそうな青いプールに、まっすぐ、綺麗なフォームで飛び込んでいった。

 四月の桜並木が、風にくすぐられている。校舎の窓が、いくつかもう開いているのが見える。
 先週まで姉妹みたいに遊んでたみぃちゃんが、今日はスーツを着てあそこにいる。きっと緊張してる。どうしよう、私、すごくうまくやりたいのに、私、足元に影がない。
 校庭で男子のふざけてる声がする。あんなに、大声、出さなくていいのに。バカじゃないの。みぃちゃんの新しい白い襟、誰も褒めてくれなかったらどうしよう。みぃちゃんのスカート、すごい、レアなのに誰も可愛いって言わなかったらどうしよう。
 それで空見たら、さっきあそこに落ちた私の影が、ぐらりとよろめいて、どうしようこんな日に、暗い雨降らせたりしたらどうしよう。
 立ち止まって、息を静めて、天気を支える。動きを控えて、空に落ちている私の影に言いきかせる。だめだよ大人しくしててよ。そこで。

 校門は人だかり。新任のみぃちゃん、あそこにいるかもしれない。こどもの頃からの夢を叶えるって、目が眩むような怖いこと。地上からあの空を覗きこむみたいに、高くて高くてそれで、高くて。
「なっちゃん、こっちだよ!」
 新しい先生が手を振る。世界一新しい先生が手を振ってる。どうしよう私、返事をひとつも選べない。一番の正解じゃなくていい。でも、おめでとうとか、すてきとかじゃなくて、ずっと力の続いてくれる言葉を口に欲しい。なのに動いたら、空に落ちた私の影が、この日をごちゃごちゃにして、雨、降らせそうで、動けない。

 花びらをまきこんで、風が枝ごと影を揺らす。
 少しでも持続してくれる答えを、選べずに、棒立ちで一生懸命、笑ってみせた。そしたら、校門の横にいたみぃちゃんも、不思議そうな顔をして笑ったから、桜の並木道の真ん中で、私は木琴を叩くように泣き出した。