【第5話 力とヤバい女の子】

第19期(2015年2月-3月)

【第5話 力とヤバい女の子】

◾︎いざなみのみこと

日本書紀に登場するいざなみのみことは、日本で最も愛憎の力を持った女性の一人です。彼女は死後、夫であるいざなぎのみことが自分の腐敗した体を見たことに怒りくるい、夫とふたりで作った国を指して「お前の国のひとを毎日1000人ころす」と言う。彼女は作ることができ、壊すことができる。

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日本の神話において、彼女は夫とふたりで島や神をたくさん作ったとされる。ラブラブだった夫いざなぎのみことは死んでしまった最愛の伴侶を黄泉の国へ迎えに来て、彼女の言いつけを守らずに部屋を覗き、その腐敗した姿を見て逃げだした。
隠しているものを暴かれて、さらにまずいものであるかのように振舞われるのは腹が立ちますね。あれほど見るなと言ったのに。あんなに愛していたのに。もっと早く迎えに来てくれればよかったのに。大体、ちょっと腐ったからって何やねん。何びびっとんねん、ナメとんか、どつきまわすぞ。彼女はもちろん激昂し、男を追いかけさせ、自らも追いかけ殺そうとした。そして永遠に別離しました。あんなに愛していたのに。

怒りに任せてものをめちゃくちゃに壊すというのは気持ち良い。私も子供の頃、学習机に穴をあけたり、たんすの中身をひっくり返したことがあります。友達にもらった手紙をぐしゃぐしゃにした後に泣きながら復元したこともあるし、弟と喧嘩したときは彼のだいじな鉛筆を折って泣かせたことがある。
そういったことは子供の頃に限らず、きっと今でもありますね。破壊するということは世界征服だ。破壊は圧倒的な力の差のもとに行われる。毎日殺される1000人の人たちは完全なる当てつけの犠牲者です。そこには何の思いやりもなく、ただ愛がある。ほんとうは怒りと腕力に任せてぶん殴るなんていけないことだけれど、ほんとうにそうしたいと思ったら、誰もそれをとめられない。私たちは何でも壊していいけれど、さびしい。

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力があれば何でも解決するのだろうか。

いざなみのみことが毎日1000人殺すと言うのに対し、いざなぎのみことは「それでは私は毎日1500人の人を生む」と言う。これは分かり合うとは言いませんね。1mmも理解し合っていない。
私は分かり合うということは必ずしも必要でないと思います。私が欲しいものを手に入れただけあの子が夕飯を食べられないとか、あの子のわがままのせいで私の誕生日が台無しになるとか、そういうことは毎日起こります。
お互いに最高の気分で分かり合うということは必ずしもあり得ない。だからしたいようにする。そうすると戦いが起こります。今日は生きのびた、明日はやられるかもしれない。でも明後日は勝利するかも。たまたま相手より自分の力が強ければ、勝利するかもしれない。
これはほんとうはいけないことかもしれないけれど、でもそれ以外にやっていく方法を少なくとも私は知らない。
好きな人に腹が立ったらどこまでも追いかけて、買っておいたジャムパンを口に詰めこみ、その強い力で壁ドンをしてこう言うのだ。
うるせえ。どつきまわすぞ。