下り坂はどこにある?

第30期(2016年12月-2017年1月)

 
 こんにちは、珈琲子です。名前にしてしまうくらいなのですが、珈琲が大好きです。一日一杯か二杯、ブラックコーヒーを飲んでいます。好きなのはもちろんですが、気付いたら毎日飲むのが習慣になっていました。それでは紹介です。

 「下り坂をそろそろと下る」 平田オリザ

 だが、本当に、本当に、大事なことは、たとえば平日の昼間に、どうしても観たい芝居やライブがあれば、職場に申し出て、いつでも気軽に休みが取れるようにすることだ。職場の誰もが、「あいつサボっている。」などと感じずに、「なんだ、そんなことか、早く言ってくれよ。その仕事なら俺がやっておくよ。舞台を楽しんできな」と言い合える職場を作ることだ。 ー本文より抜粋

 劇作家、平田オリザさんが書かれた本です。私自身は平田オリザさんの演劇は観たことがなく、映画「さようなら」を観たことがあるのみです。
「さようなら」は近未来の放射能に侵された日本が舞台で、他国への移動の順番を待つ、移民のターニャと、ターニャとずっと一緒にいたアンドロイドのレオナの物語です。
 他国に移動ができる優先順位の基準、人間とアンドロイドとの関係、起こりうる、未来に実現することもありうる日本の未来。私はこの映画を今年の一月か二月に観たのですが、この本を読み返して思い返すと、とても冷静に、夢を見ずに現実を見つめ、少し先の未来を想像した作品だったんだと気づきました。「さようなら」はアンドロイドの出てくる近未来の、ファンタジーだと初め思わせる映画でしたが、「今の現実」から地続きになっている未来を創造した、リアリティを追求した作品でした。
 
 この本は今の日本で起きている問題を、(本書初版発行2016年4月20日)著者が携わっている地域、人々との交流からたどり、解決策といったすぐに現実に作用できるものだけではなく、今の日本で生きていくうえでの、心構えに近いものを記しています。

 地方の人口減少、東京への人口の一点集中の問題に関して、地方に求められているのはセンス(能力)だと、著者は書いています。小豆島、城崎などの施策を挙げて書いています。
 そして良い施策、デザインのもととなるアイディアに必要なのは「芸術」だと著者は書いています。なぜ著者は、お金でも労働力でもリーダーシップでもなく、必要なものは「芸術」だと書いたのか、考えてみました。

・他者に対する想像力を養うため

 作品(映画、小説舞台など物語のあるもの)を通して、自分とは違う人間の気持ちを体験し、想像する力を育むためです。生活をしていると、どうしても自分の生活範囲の中に落ち着き、異なる文化の人と接触する機会が減ってしまうと思います。そしていざ異文化を持った人、外国人の人などとコミュニケーションをとる時、そこでは他者の文化を受け入れる、または異なる文化を持っている人間として理解する能力が必要になると思います。それは「もし自分が彼(彼女)だったら。」という、自分に置き換える想像力だと思います。それを養うには、物語という、物語の登場人物ではない私たちもその中に入ることができる芸術作品だと思います。

・自分の言葉や気持ちを外に出すことが、これからより大切になっていくから。

 人口知能など技術の発展によって単純作業やマニュアル化されている仕事はこれから減っていくことが予想されます。そして機械にできなくて人間のみができること。自分の持っている情報と情報を組み合わせて新しいものをつくること、予想外に起きた物事にその場で対応する能力です。機械は沢山のことを記憶することができても、組み込まれていないことを自分達の意思で新たに始めることはできないからです。
 そしてまず、自分の気持ちを外に表現する「器」として、映像があり、文章があり、演劇があります。まずはお手本となる、「芸術」を観たり読んだりすることが大切なのだと思います。

・問題を解決する能力だけではなく、問題を自らつくる能力も必要なため

 自分に与えられる問題に、正しい解答をだすことだけではなく、「問題が何なのか」を突き止める能力も必要かと思います。「なぜ、今うまくいっていないのか。」「どうして思い通りになっていないのか。」原因を突き止めることができない問題には、想像して自分が問題を仮定してつくっていくことが必要です。それは白紙から、何もないところから新たに作りだす作業です。芸術も同じで、何もない、0から作品は作られています。問題をつくりだす作業を始めるためにも、芸術は必要なのだと思います。

 この身体的文化資本を育てていくには、本物に多く触れさせる以外に方法はないと考えられている ー本文より抜粋

 センス(能力)を育てる方法として、多くの本物、一流のものを見て触れて養っていくしかないと著者は書いています。こうすればいい、という方法があるものではなく、どうすればセンスが磨かれるのか、そこを考えることから、センスを磨く練習が始まっているのだと思います。

 明治近代の成立、戦争後の復興、高度経済成長。今まで日本で起きた成長を上り坂とあらわし、緩やかになり、大きな成長が見込めないこれからの日本を下り坂と著者は表しています。そして下り坂を下りるなかで大切なのは、下り坂を下りている時に感じる、寂しさを受け止めて尊重しながら、先に進んでいくことだと書いています。時代が変わっていくことを受け止めながら、それによって失っていくものへ想像力を働かせ共感する気持ちをもち、自分にとって不都合な現実を受け入れながら、進んでいく。

 なぜ寂しさを、失っていくものを受け止める必要があるのか。私はこの部分に疑問を持ち、考えてみました。

 それは下り坂は一人で下りるものではなく、みんなで下りていかなければいけないから。寂しいと思い苦しむ相手の気持ちを自分も想像し、相手の側に立ち、そのあとに何ができるのか、どうしたらゆっくりでも先に進むことができるのか、一緒に考えることが、大切なのだと私は考えました。

 韓国と日本の関係、震災後の復興について、待機児童のことなど、現在日本が抱えている問題について書かれているので、ぜひぜひ読んでみてください。