谷底本箱煙猫―くんちゃんのはじめてのがっこう

長期滞在者

くんちゃんは あいている とを みていました。

とのまえまで きたとき、

とつぜん くんちゃんのあしが はやくなりました。そして あいている とぐちから さっと そとへ とびだしてしまいました。

(『くんちゃんのはじめてのがっこう』より)

4月になった。桜並木を通るたび、私は空を仰ぐ。入学式まで花は持つだろうか。明日は雨の予報だが、散ってしまわないだろうか。そして入学式。残っていた雨も上がった。私はいつも通り図書館内で新年度を迎える準備をしている。満開の桜。そろそろ、真新しい制服を来た一年生が両親に手をひかれて歩いている頃か。1年生の教室は図書館の目の前。賑やかな声が聞こえてきた。私はそわそわして席を立つ。今年はどんな子たちと出会えるだろう。背伸びをし、親たちの垣根の向こうにある教室をちらりとのぞく。気持ちだけをその場に残し、作業に戻る。1年生が図書館に来るようになるのはまだしばらく先だけど、最初に読む本は決まっている。そうそう、誰かに借りられてしまう前に本棚から持ってきておかないと!

 

毎年、最初の図書館での時間には『くんちゃんのはじめてのがっこう』を読んでいます。

くまのくんちゃんは1年生。今日がはじめての登校です。お母さんと連れ立って学校へ向かいます。道々出会う生きものたちに「ぼく、がっこうへいくんだよ。」と声をかけ、うれしそうなくんちゃんですが、学校の前でお母さんと別れるとき、「いてほしい」と思うのです。さて、授業がはじまると、くんちゃんの不安は大きくなっていきます。字が書けないし、計算もできない。くんちゃんはついに学校の外に飛び出してしまいます。窓の外から中をのぞいてみると、先生は、名前の一番初めのことばではじまる言葉をみんなに聞いています。「だれか くんちゃんの “く”で はじまる ことばを しっていますか?」くんちゃんは窓の外から「くま、くるみ、くまんばち!」とさけびました。

入学して間もない1年生にとって、くんちゃんは自分です。校門の前でお母さんと離れられなくて泣く子。教室に入れなくてもじもじする子。みんな、教室を飛び出したくんちゃんがどうなってしまうのか息をひそめて聞いています。名前のところにさしかかると、「くさ!」「くも!」「クイズ!」と言葉が飛び出します。そして最後、くんちゃんが自分の席に戻ることができると、ほっとした空気が流れます。読み終わったあとはお楽しみの時間。みんなにもくんちゃんと同じように「じぶんの なまえと おなじ おとで はじまる ものの え」を描いてもらいます。これが傑作!みなさんにも少しだけお見せしますね。なまえのいちもじ、わかりますか?

☆今月の一冊:『くんちゃんのはじめてのがっこう』(ドロシー・マリノ さく まさきるりこ やく/ペンギン社)
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