日本のヤバい女の子
【9月のヤバい女の子/期待とヤバい女の子】 ● アマテラスオオミカミ ――皆が自分を見ている。自分の働きを待っている。でも少し、ほんのちょっとだけ、10秒くらいでいいからそっとしておいてほしい日もあるのだ。 ――――― 《天岩戸(古事記)》 アマテラスオオミカミは警戒していた。ものすごい足音を立てて弟・スサノオノミコトが高天原へ向かってくるからだ。スサノオは父・イザナギノミコトに命じられて海原を治…
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【7月のヤバい女の子/「あげまん」とヤバい女の子】 ● 炭焼長者の妻 ――――― 《炭焼長者(再婚型)》 東の長者と西の長者は仲が良かった。 長者の妻が揃って妊娠していたある日、二人は待ち合わせして馴染みの釣り場へ出かけていった。 流木を枕にして休憩しているうちに東の長者は眠り込んでしまう。西の長者が一人で起きて潮の様子を見ていると、どこからかボソボソと話し合う声が聞こえてきた。 見ると、自分たち…
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【5月のヤバい女の子/嫉妬とヤバい女の子】 ● 山の女神 ――――― 《オコゼと山の神》 昔々、山にひとりの神が住んでいた。女性の神だ。普段はほとんど姿を現さなかったが、秋から冬は山を、春から夏は田んぼを司っていた。辺り一帯の村は彼女の加護を受け、いつも実りに恵まれていた。 ある時、山の神は珍しく里に降り、農作物の出来を視察して回ることにした。どの家でも田植えを終え、さわやかな風にまだ背の低い苗が…
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【4月のヤバい女の子/ オタクとヤバい女の子】 ● 鬼を拝んだおばあさん ――――― 《 鬼を拝んだおばあさん》 昔々、今でいう富山県の辺りに一人のおばあさんが暮らしていた。 おばあさんは変わり者で、鬼を熱心に信仰していた。普通の人が「仏様…仏様…」と唱える場面で、一人だけ「鬼様…鬼様…」と祈るのである。 周囲の人々は皆「やばいって、やめなよ」ととめるが、聞く耳を持たない。結局、年を取って亡くなる…
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【1月のヤバい女の子/矛盾とヤバい女の子】 ●北山の狗の妻 ――――― 《北山の狗 、人を妻とする語(今昔物語 巻三十一/十五話)》 今となっては昔の話だが、京に一人の男がいた。ある時男は北山へ遊びに行った帰りに道に迷い、山の中で小さな庵にたどり着く。 声をかけると中から二十歳ばかりの美しい女が出てきた。突然の来訪者にたいそう驚いている。道が分からなくなって帰れない、今夜泊めてほしいと頼んだが、彼…
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【12月のヤバい女の子/抵抗とヤバい女の子】 ●松浦佐用姫 ――――― 《松浦佐用姫》 佐賀県唐津市。今から1500年前、この土地に一人の男性が立ち寄った。彼は大伴狭手彦(おおとものさでひこ)という名で、新羅へ出征する道中だった。 松浦の地に身を寄せた狭手彦を、地元の長者の娘が世話をすることになった。松浦佐用姫という少女だ。あれこれと面倒を見るうち、二人は仲良くなり、恋が生まれるまで時間はかからな…
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【11月のヤバい女の子/年齢とヤバい女の子】 ●辰子姫 ――――― 《辰子姫伝説》 秋田県の山あいの村に一人の女の子が暮していた。 素朴でやさしい、辰子という名前の子だ。幼かった辰子は数年のうちに、はっとするような美しい少女に育った。 周囲から「年頃」と言われ、周りの同年代の少女たちと同じく大人のように扱われ始めても、しばらくの間、辰子は自分の顔かたちに無頓着だった。子供のように野山を駆けまわって…
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【10月のヤバい女の子/腕力とヤバい女の子】 ●尾張国中島郡の大領・久坂利の妻 ――――― 《尾張の国の女、細畳を取り返す語(今昔物語/巻二十三・第十八話)》 (一) 今となっては昔のことだが、聖武天皇の時代の尾張に久玖利という男がいた。男の妻は糸のように華奢で柔和な雰囲気の女性だった。 彼女は麻の糸から細畳の生地を織るのがたいそう上手く、夫に素晴らしい着物を仕立てて着せていた。 ある時、久玖利の…
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【8月のヤバい女の子/幽霊とヤバい女の子】 ●お菊 ――――― 《皿屋敷(落語)》 ある夏の夜、一人の男が肝試しをしようと言い出した。 近くにかの有名な番町皿屋敷跡がある。青山という男が美しい女中お菊に横恋慕するが相手にされず、腹いせに家宝の十枚一組の皿を一枚隠し、菊に濡れ衣を着せて指を切り落とし、井戸に吊るして殺してしまった……というアレだ。青山の屋敷には今もなお古い井戸がぽっかりと残っていて、…
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【7月のヤバい女の子/身だしなみとヤバい女の子】 ●虫愛づる姫君 ――――― 《虫愛づる姫君(堤中納言物語)》 蝶を愛する姫君の屋敷の隣に、按察使の大納言の娘が住んでいた。 「人々は花や蝶を愛するけど、私にはそれがとても儚く頼りなく思える。物ごとの本質を追い求めることこそが素晴らしい生き方ではないか。」 大納言の姫君はそう言って、人が嫌うような毒々しい虫を好んで集めさせて飼育していた。特に毛虫がお…
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【6月のヤバい女の子/失望とヤバい女の子】 ●人に知られざる女盗人の語 ――――― 《人に知られざる女盗人の語(今昔物語)》 今は昔。 どこの誰とも知れないが、背が高くすらりとした、髭の男がいた。 ある日男が歩いていると、見知らぬ家の中から誰かが鼠鳴きで呼ぶ。女の声で「扉は押せば開くから、入っておいで」と囁かれる。男は面食らいながらも言われるままに扉の奥へ入っていく。入ったら鍵をかけて。鍵をかけた…
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【5月のヤバい女の子/仕事とヤバい女の子】 ●鬼怒沼の機織姫 ――――― 《鬼怒沼の機織姫》 川俣に弥十という若者がいた。弥十は姉の家に遣いへ行った帰り、山道を一人で歩いていた。 彼にとってこの辺りは勝手知ったる庭だったが、今日はいつもと様子が違う。いつの間にか道を外れ、知らない場所を登っていた。不思議に思いながらそれでも歩き続けていると突然草木が分かれ、ぱっと視界が開けた。眩しい目を凝らすと辺…