「 非ユーグリット幾何学 : non-Euclidean geometry 」
紀元前の数学者ユーグリットは、幾何学において5つの公理を定めました。
直角はすべて等しいこと、一つの点と半径を決めれば一つの円ができること、などです。
その公理の一つは「与えられた直線上にない1点を通り、その直線と平行な直線は1本しかない」という平行線公理です。
この平行線公理はまさに「自明の真理」と思われていました。
しかし、何人もの数学者が挑戦しても、他の公理から平行線公理を証明することができませんでした。
なぜ証明ができないのか、その原因がわかったのは19世紀になってからです。
平行線公理は「自明の真理」ではなく、「人間が勝手に定めた仮定」にすぎないことがわかったのです。
ならば、この「仮定」を覆した幾何学が存在するのではないか?
そうして出来上がったのが非ユーグリット幾何学です。
ユーグリット幾何学が完全な平面上の幾何学なら、非ユーグリット幾何学は曲面上の幾何学です。
非ユーグリット幾何学では不思議なことが起こります。
直線は放物線を描き、三角形の角の和は180度ではなくなります。
一つの前提を疑うことで、全く違う景色が見える。
球体である地球の周りを飛ぶ航空力学において、重力によって空間が歪む相対性理論において、
真に有効なのは非ユーグリット幾何学なのです。
「エーテル : Ether」
光の実態は、波なのか、粒子なのか。
その実態を突き止める試みは何世紀にも渡って続けられました。
仮に光が波であった場合、音を伝える空気のように、光の波を伝える媒体が必要です。
仮定された光を伝える媒体は、「エーテル」と名付けられました。
この目に見えない「エーテル」が、天上から私たちの周りにまで、くまなく満たされているのだ、
と一部の科学者は考えていたのです。
この「エーテル」という語が生まれたのは古代ギリシャです。
古代ギリシャの偉大な哲学者アリストテレスは「真空」を認めませんでした。
大気の上層、神々のいる場所は、地上の空気とは違うエーテルという物質で満たされていると考えました。
エーテルは字義的に「常に輝き続けるもの」を意味しており、地上の死すべきものたちの世界と対照的な世界を構成する要素だったのです。
化学においての「エーテル」は、有機化合物のことです。
エーテルは広く麻酔薬、燃料、またエタノール(アルコール)飲料の代価品として使用されていました。
エーテルが発見された際、その高い揮発性を「地上にあるべきでない物質が天に帰ろうとしている」と解釈されたため、遥か天上の物質である「エーテル」の名前が付けられたのです。
(光の実態は、20世紀半ばに量子力学が確立されたことで証明されました。
量子力学によると、光に限らず全ての物質は「波であり、粒子である」と言います。)
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1年と1ヶ月にわたって連載させていただきました「風景のある図鑑」これにて連載終了となります。
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