当番ノート 第4期
朝、あの人は目を覚ます。 いつものように一日が始まる。 あの人は一緒にいるその人と一緒に旅した思い出の旅行の記憶が全くない。 確かに行ったあの場所。 たくさんの写真の中で、あの人はその人と笑顔でいる。 まばゆいほどの太陽と共に。 他にもある。失った記憶。 あの人の歴史の一部をぽっかりと。 まちがいなくあの時間はあの人と共にあった。 不思議なものでそれは地震によってできた地割れのように あの人にとっ…
当番ノート 第4期
「ドキュん!ゴキュん!!胸の奥〜♫」 「おいおい、兄ちゃん。船の臨時便がなかなか来ないからってDAPANPをそんなにバナナを握り潰しながら 熱唱されたら、船を待ってる他のお客さんに迷惑だよ。それに何より、ドキュん!ゴキュん!じゃなくて、 ドキュん!ドキュん!じゃろうに。」 「ドキュん!をゴキュん!に歌い変えているのにはれっきとした理由があるんです。 ゴ(5)キュ(9)ん。私は59歳までに、島で恋と…
長期滞在者
沈黙が、ひとを繋ぐことがある。語らなくても、なにかが深く互いのこころに染み込んで、言葉にしなくても通じ合う。沈黙が放つ閃光は、あまりにも微かで、あまりにも儚い光だから、見逃してしまうことも多い。だけど、なにかの拍子に、他人同士が隣り合って、肩を並べて、互いの痛みを分かち合う、そんな深い関係になれもする。わたしが予備校生だったころ、そんな経験をした。 ヘジナウドは、カエターノ・ヴェローゾによ…
当番ノート 第4期
八月の夏の勢いを過ぎれば予感がある どんな人の中にも冬への覚悟がある 北のもう少し北の内陸に海を知らない盆地 二本の川に挟まれその合流を抱く街 そういう土地は 寒さを逃がそうとしない 雪の影は青く 昇華した氷晶が煌めき 忽然太陽柱が現れては消え 除雪車に削り取られた雪の道は 朝の一瞬鈍く虹色に反射を起こす オーホーツク沿岸が樺太から流氷を招き入れる二月の頃 これでもかと凍れ上がる 北緯…
当番ノート 第4期
最近ぼくの頭の中には、「出来るまでやる」ということばが常に浮かんでいます。 2011年に企画した杵島隆写真展「日本の四季」に展示したプリントは、1990年頃制作した和紙仕立てと呼ばれる大変珍しいプリントでした。経師の職人さんがカラー印画紙の乳剤の部分だけを慎重に剥がし、厚手の和紙に丁寧に仕立て直したものです。日本の職人さんの技術は、例えば新聞紙を包丁で二枚にすることが出来る程だそうで、水墨画などは…
当番ノート 第4期
七月末。野馬追という、祭りというか神事を追いかけて、三日間、福島県南相馬市の原町区や小高区にいた。 東京に帰るとインターネットがつながらなくなっていた。 このまま更新されないアパートメントというのも気持ちが良い気がする。 野馬追行脚の三日間で出会った人たち、見た風景について、帰ってきた今も色々と考えることが多い。 南相馬の銭湯で、湯上がりのおばはんに「じゃ、来年も祭りで会いましょう」と笑って挨拶し…
当番ノート 第4期
「じゃあ一言だけ」と遠慮がちに言ったババアが、 さっきから永遠と全校生徒の前で、なんだかわけのわからない話をしている。 蝉のミーンミーンの方が、まだ言いたいことまとまっている気がするよ。 夏の朝、校庭。 私は何時間か前まで一緒に居たあの人のことばかり考えていて、 まばたきするのも忘れてしまうくらいに忙しい。 朝方、あの人を残して 一人こっそり家に帰って着替えをして 高校生の姿になっ…
当番ノート 第4期
ある公園へ撮影をしに行った日の出来事。 その公園には噴水があって、その周りでは鴨の親子や鳩達が 日光浴や水浴びをしていた 噴水のそばに1羽、けがをしているのか人間が近くにいても飛び立つ事のできない鳩がいた 近くには鳥達に餌をあげないでという趣旨の看板が立てられていたけれど 私はポッケの中に入れていたクッキーをその子にあげたい気持になってしまった しかし、私が一定以上の距離に近寄ってはよたよたの…
当番ノート 第4期
夏休みが終わり飛行機で乗り継ぎの為のミュンヘン空港についた所。 相変わらず東京ーミュンヘン間、長い11時間半ほどにおよぶ機内は もう慣れてはきたものの、着いてみると一体自分は何をしてこんなにも狭いスペースで 時間が過ぎていったのかと思う。 そして毎回のように感じる事があって それは飛行機は本当に飛んでいるのか?ということ。 実感がない。 それはどこか、例えば映画の為のセットだったり アミューズメン…