当番ノート 第6期
その日はあめかぜの音で目が覚めた。 雨粒がガラスを打つ。 おなかが重くって体がだるい。 どれだけ待ってもわたしの住む町に 雪は降りだしそうになかった。 手ざわりのない世界は一面の雪景色。 手ざわりのある世界に雪なんて一粒も降らない。 わたしはじぶんがどこにいるのか分からなくなってしまった。 雪の降る前の日の夜、生理がきた。 あたまを動かしたいのに からだを動かしたいのに 子宮はわたしのすべてに近い…
管理人室の往復書簡
かおちゃんや。 こんにちは。 アパートメントの寅さんこと、はるえです。 いやほんとに書けなかったね。 最後に書いたのはいつぐらい前かなといま確認したら。去年の5月。9ヶ月。半年くらいかとばかり思っていた。 かおちゃん、年があけて今日は、1月16日だ。 そう、わたしたちが東京のカフェで会った日だ。アパートメントをつくろうとなった日だ。 記念日関係、自分の恋人の誕生日や別れた日とかおいっこの誕生日、高…
当番ノート 第6期
ロバート・アルトマンはまったく好きな監督でもなんでもないけれど、あの中二の真冬の町外れで観た”三人の女”の日のことは鮮明に憶えている。ずっと薄暗い室内に根暗そうな三姉妹。そして飲んだ牛乳が酸っぱくて吐き出す陰鬱さ。なんてロクでもない映画なんだろう。好き! 高校へはバスで通っていたから、まんまとそのまま寝過ごせば、スガイビルディングの元祖シネコン前に到着する。そこで数えきれな…
当番ノート 第6期
一度死んだことがある。 ブラックアウトもしくはホワイトアウト。 そこは「何も無かった」。 「入院しますか?」 その1週間前、私は先生に訊かれた。 「家族と相談してから決めます。」 そう答えて病院を後にした。 その病院には何日か後に救急車で運ばれることになる。 やけに音がうるさくて落ち着かないのです。―――それがその時先生に相談した内容だったと思う。 その時私に与えられていた病名は「うつ状態・解離性…
当番ノート 第6期
マルセイユは、女子どもは日が暮れたら男の同伴なしには外を出歩けないマッチョ都市です。 地下鉄や市電は市の一部にしか通っていません。 バスなんか路線によっては夜8時ぐらいでなくなってしまったりします。 タクシーに関しては、「マルセイユのタクシーは運転手のマイルールで運行される」というのは、映画『タクシー』でも世界的にも有名になった事実で、サッカーの試合があると、TGVが乗り入れるサン・シャルル駅では…
当番ノート 第6期
腕時計が好きです。 現在のマキヲコレクションは全部で3つ。(少) そのうち2つは時刻が非常に見辛く、時計としての機能をはたしておりません。 さらにその2つのうち1つは針がすぐ止まるポンコツで使えないし、お気に入りだったもう1つは、最近母が洋服と一緒に洗ってしまって壊れてしまいました。 酔っぱらって一緒にお風呂入っちゃった時も壊れなかった頑丈な子だったのに・・・。無念。 しかし全裸に腕時計だけ、って…
当番ノート 第6期
まだまだ寒い今日この頃、皆さん元気でしょうか? さてさてこの連載も七回となりました! 2013年始まったばかり!張り切っていきましょう! ということで今回は、完全なる持論を漫画にした作品。 そんなわけねぇよという気持ちで読んでくれたあなた。それで正解です。 こういうのって結局人によるもんだし。 この考えは、高校の授業中あまりにも退屈で、いろんな妄想していたらなんかたどり着いた持論で、当時はこれはす…
当番ノート 第6期
「みおのなまえは青森のおじいちゃんが かしこくて誰からもあいされる うつくしい人になりますようにと 願って、つけてくれたんだよ。」 小学生のころ、こんな宿題があった。 自分のなまえの由来を両親に聞いて それについて作文をする。 最後にクラスメイトの前で発表するというもの。 生まれたあとすぐに撮られた8mmビデオ 産婦人科のベビーベッド 大きくかけられたわたしのなまえ 続々とお母さんのもとにや…
当番ノート 第6期
むかしフィリップKディックとモンキーパンチとチャールズブコウスキーをミックスしたようなSFハードボイルドを書いて名だたるSF文学賞に応募したことがある。結果は落選だった。タイトルは”ディックマンブルース” いまでは不毛に時間を費やしてしまったなとちょっとした人生の汚点だか、当時はイケると思っていたから仕方が無い。長編だからここに掲載する訳にもいけれど、ざっと要約すると、、、…
長期滞在者
昨年末、新幹線でげろげろ酔いながら、家族の暮す群馬へと帰省した。群馬の土地を踏むのは、一年ぶりだった。まず、大学時代の恩師と品川で会ってから、混雑した電車に飛び込んだ。見慣れていたはずの東京の雑踏、人の群れ。何度利用しても好きになれない赤羽駅で乗り換えて、いつもの二倍、三倍の人でごったがえしていた本庄駅でむかえの車を待った。駅前のミスドがなくなっていた。 もう長く顔を見ていなかった父方の祖父母…
当番ノート 第6期
東の魔女と西の魔女。バハムートとリヴァイアサン。夫の人が私とかおりさんを評してそう言った。 おこがましい。並べられるようなものなど、ないよ。とも思うし面白いとも思う。 (魔女は南の島にもいるのだけど、それはまた別の話) かおりさんと最初すれ違った頃、私たちは違う名前だった。 その場所で私たちは一度も会話をしなかった気がする。 顔の見えない場所で、名前と言葉だけ何度も見かける。 すれ違う70億人の中…