当番ノート 第11期
ボールペン シャープペン 鉛筆 「書ける」という事は同じでも、伝わる印象に大きな違い。 ちょっと動かす 少し動かす 微妙に動かす 「動かし方」一つにしても人それぞれ捉え方のニュアンスや表現は違う。 僕は最後の微妙というのが、その人が持っている「その人自身の集約された感覚」だと思っています。 宿で一番に気を使うものは何か。一番緊張する事は何か? それは、お客さんがお部屋にいる際にドアを「トントン」と…
当番ノート 第11期
たくさんの路地裏をみました。 あの人は、薄明かりの下の風景が好きでした。 以来、わたしは、 この薄暗い道を奥へと進んだところにも、 エネルギーがあるのだと思うようになりました。 たくさんの笑顔をみました。 その人は、街へ出ては人の顔ばかり撮るのでした。 美しい女性、美しい笑顔、化粧のはげた顔、怒った顔。 時々、体の一部がない人のポートレイト。 以来、わたしは、 笑顔の中にも時折奇妙さを見るようにな…
長期滞在者
10年近く暮らした新宿から、仕事場から5キロ程離れた杉並に引っ越す事にしました。 この記事が出る頃には、荷物の移動だけは終わっていると思うけれど、しばらくの間は大量の荷物に埋もれるような感じで暮らすのかもしれません。だいたい、滅多な事では新宿・四谷の町を出ないぼくにとって、杉並に引っ越すのは結構な大事件で、気分的には「移住」と呼びたいくらいなのです。 とにかく、本の量が半端ないため、この機会にかな…
当番ノート 第11期
夜になると煌びやかなネオンで彩られる町も、昼間は驚くほど閑散としている。夜の間に放たれた下卑た匂い。理性から解放された生き物としての人間の匂い、生臭さ、駆け引き。町を満たしていたそれらが、夜明けとともに静かに辺りに染み込みこんでいく。地面に、建物に、家路に着く人の体と魂の中に。そうやってできた、おりのたまった町。太陽や月よりも人の作った光が似合う町。私の育った町もそうだった。雨のしのつく午後3時。…
長期滞在者
先日、引っ越しの手伝いをすることになった。晴れたり雨が降ったりと、定まらないお天気で、空はどんよりと暗いところもあれば、光が射して眩しいところもあった。平べったいアーチの虹がふたつ浮かんでいて、はっきりと虹の出ているところがみえた。子どものころ、虹のふもとには宝物が眠っていると聞いたことがある。だけど、虹は自分がいる場所によって見えたり見えなかったりするし、動いたら出ている場所だって変わるじゃな…
当番ノート 第11期
星がきれいだった だからわた この道はタバコを吸ってはダメです って、 そういうふうに言われたら 嫌いなタバコをもくもく吸って歩きたい 持っているゴミをばら撒きながら歩きたい し そういう気分 わたし酔っぱらって 寝過ごしてしまって、 降りたこともない駅で、 普段ならタクシーに乗ってしまうんだけど 2時間も歩けば家に着くだろ…
当番ノート 第11期
たどり着けない振動で回り続けるクリック。 目を覚ますとそこにはたどり着けない。 目を覚ます前。 開闢のネグレクト。 眠りに就くとは、目を覚ます。 バスの中のバス停でバスを待つ。 夢そっくりな現実が夢だった。 瘡蓋から流れるタイムライン。 鞄の中の階段を上り、二階にまつわるいくつかの地獄が、遠くの広場で終わりを告げる。 机の上の砂漠が対角線を求め、熟されたゴミ箱はコピーされる。 振り返れば振り返る程…
当番ノート 第11期
月はかわって11月、霜月。日本諸国にも出雲から神様たちがお戻りになっていることでしょう。 先月10月は神無月でした。八百万の神様たちが会議をするために出雲の国へお出でになってしまうため、そう呼ばれるようになったのは良く知られているところです。 今年2013年は、伊勢神宮でも大祭がありました。 20年に1度、正殿を始め御垣内などの社殿を造り替え、さらに殿内の御装束や神宝を新調して御神体を新宮へと遷す…
風景のある図鑑
「ウェシカ・ピスキス:vesica piscis」 紙の上にコンパスの針を刺し、円を描きます。 コンパスをその大きさのままに、描いた円の円周上に針を刺し、もうひとつの円を描きます。 二つの円が重なる部分にアーモンドのような形ができます。 これが「ウェシカ・ピスキス」と呼ばれます。文字通りの意味は「魚の浮き袋」です。 「鉄:iron」 古代、鉄は空から降ってくるものでした。 鉄隕石は、鉄にわずかなニ…
当番ノート 第11期
初めて一眼レフのカメラにふれたのは高校1年生の頃 引っ越しをしてからずっとしまい込まれていた段ボールの中にあったそれは 付属の革のケースが砂のように劣化していて手に取るのも躊躇うほどだった。 むかし祖父が使っていたものらしいのだがそこまで極端に古いものでもなくカメラそのものはしっかりと動いた。 その精密機械が発する空気みたいなものが持ち歩くのは少し怖い感じがしたけれど なんだかフィルムを巻き上げる…
当番ノート 第11期
『価値』について ホトリニテの宿泊料金は、1泊素泊り3000円です。題に3000万円とありますが、間違いではありません。世の中で公式にもっとも高額とされている宿泊料金はおよそ1泊350万~420万円ぐらいが相場です。その一夜を特別なものにする。そこにどんな大金持ちでも1泊素泊まり3000万円もだして宿泊する人など、ほぼいないでしょう。3000万円あったら、そのもの(宿泊施設)を作りますからね。 こ…
当番ノート 第11期
いつもお墓参りに向かう山道の途中にある、 小さな川と並走するように見えない向こう側へと伸びていく小径に惹かれていた。 そして、ある日のこと、その小径の入り口に深緑色の看板が立てられていることに気がついた。 あの小径の向こう側、何かできたらしい。 「ねえ、今日は帰りにあの小径の先に行ってみようよ。」 小さな車が一台通れるか通れないくらいの幅の狭い道をおそるおそる抜けてゆくと、 そこに古びた洋館があら…