長期滞在者
年末に、写真研究家の鳥原学さんが「日本写真史」という上下巻の本を出版されました。幕末維新から2010年代初頭まで、日本に限定した写真の通史を綴るという今までには無かったテキストです。ぜひ皆さんも読んでみて下さい。鳥原さんは、ぼくよりも一回り年上で20年来お世話になっている方なんですが、あるときぼくに、写真以外の趣味を持つことを勧めて下さいました。 料理など特に良い、と言うのです。 先日この出版記念…
当番ノート 第12期
鏡よ鏡よ鏡さん・・・ 美容院が苦手であります。 できることなら避けたいくらいの場所なのだけど、時にヘアースタイルも変えたくなるし 伸びてきたらカットもしたい。 髪型ひとつで印象はガラリと変わるもの、私もまだまだおしゃれを楽しみたい。 だって、女ですもの。 だというのに、どうにもこうにもいかなくなった時の最終手段的な存在とは いかがなものなのか。 それこそ女としてどうなのさ。 若かりし頃、そんなこと…
当番ノート 第12期
トン と小さく高い音が、ただ一度だけ飛び込んでくるのが聞こえました。 過去の恋人たちとの再会を繰り返すことで、 彼が必ずいつかは現れることは分かり切っていたのですが それでも顔を見た瞬間に「ひっ」と一瞬息を止めてしまうことをみみこちゃんは避けられませんでした。 「コウくん…久しぶり」 彼の薄平べったい身体と共に、扉の隙間からは宵闇が忍び込んでくるのが見えました。 もうすぐ夜が来ます。一日が終わるの…
当番ノート 第12期
タバコがやめられるかもしれない話 みんな、明けましておめでとう。 正月は用があって東京に行った。 かつて俺も東京に住んでいたことがある。 住み始めてすぐ、夢破れて光の速さで静岡に逃げ帰ったのだが、それから東京に殆ど縁が無い。 電車を乗り継いで某区に辿り着く。 某区のとあるバス停でバスを待っている間、俺は標識の路線図をぼんやり眺めていた。 あ、そうだ。 話が急にそれて申し訳ないが、そんときムカついた…
長期滞在者
岡山から関西国際空港へ向かうバスの中で書いている。 ちょうど一ヶ月前に、ベルギーを訪れていた世界的陶芸家のTさんの通訳兼アシスタントとして10日間の予定でうちを出たのだが、そのうち実家から母が入院したとの連絡が入り、急遽帰国を決め、出先からそのまま日本に来たのだった。 陶芸家のTさんとの出会いは、とても強力だった。あらゆる言葉が正直に語られ、あまりにも純粋であるがために、ぼくにとってそれらは時には…
当番ノート 第12期
あけましておめでとうございます。 本年もどうぞ宜しくお願い致します。 Facebookで”今年は「変化の年」となりそうな気がしています。”と書いた。 根拠は無いが、何故かそういう気がしたのだ。 その後に初詣でおみくじをひいた。 自分がこうなっていくだろうなと思い描いていた内容がそこには記されていた。 神様にも後押しされているんだと素直にそう思った。 どうなるかはわからないけ…
風景のある図鑑
「分子シャペロン:Molecular chaperone」 人間の設計図であるDNAは、4つのアルファベット、A、T、G、Cで構成されているタンパク質のヒモです。 そのアルファベットの並びは3つで1組となっており、 1組には対応する1つのアミノ酸(タンパク質を構成する分子)があります。 DNAを読み取ることで、DNAに書かれた通りの並び方の「アミノ酸のヒモ」を作ることができます。 タンパク質には様…
当番ノート 第12期
古い年と新しい年の渚である年の瀬に、地元に戻ってきました。 ぼくの地元は二つあります。 一つは18まで育った場所、姫路。 それと、18から22まで過ごした場所、京都。 そんな京都は偶然、ほんとの地元になりました。 お父ちゃんがおうちを建てたからです。 帰省するとなると、ほんとに京都に来ることになりました。 なので、年の瀬にはその二つの地元に戻ります。今回もそうでした。 今回の文章はとても日記です。…
当番ノート 第12期
たまに 強くて、 カラフルで ドキドキしてしまうような夢を見ることがあります。 夢の話をするのが好きです。 人の夢の話を聞くのも好きです。 夢と現実で、この世は作られているのだなと思います。
当番ノート 第12期
BRONICAという真四角の写真が撮れるフィルムカメラで 父は 母と幼き頃の私を写していた。 古いアルバムには このカメラで写されたモノクロ写真が何枚も貼られている。 しばらくして父はこのカメラを写真好きの叔父へ譲り 何十年という時を経た。 七年前、父が亡くなった。 一周忌の時だったろうか、たまたまその叔父にフィルム写真を撮っていることを話すと 何十年も使っていないので写るかはわからないけれど、父…
当番ノート 第12期
窓から差し込む光に紅が混じっていることに気が付いたのは、 二人の着席している机に、それが反射していたからです。 静かに次のノックの音を待っていたみみこちゃんは プイと顔を背けたままのねこたくんの横顔について、 気が付いたことがあるのですが、声に出そうかと躊躇っている内に扉が大きく鳴きました。 ドンドン 「よ」 軽く片手を上げて挨拶をする彼の姿は絡み合った糸を瞬時に解すように朗らかで、 みみこちゃん…