虫の譜
私が小学生の頃、つまり今から20年ほど前には、大阪市のはずれの平野区にはあちこちに空き地があった。「道路予定地」とか「建設予定地」といった看板が貼り付けられた、子どもの背丈ぐらいの緑色のフェンスで囲まれた草ぼうぼうの原っぱだ。そこで虫捕りをするのが、夏の夕暮れのお決まりの過ごし方だった。 似たような空き地でも、そこに見られる生き物の「相」はそれぞれに異なっていた。ここはオンブバッタばっかり、ここに…
当番ノート 第13期
母と大叔母の家を訪ねる。 お味噌汁のいいにおい。 日が暮れる。 自転車の漕ぎ出し。あ、ライトつけなくちゃ。 ここいらの電線、こんなにぎざぎざだったっけ? 気をつけて道渡ってよ。母が後ろから。いくつの子やねん。 危ない。車きてるよ。 がらがらがらと音。小さなこどもが遊んでいる。 こんばんは。こんばんは。 小さな村の細い道へ入って、年明けにいつも訪ねる神社の一本前で曲がる。 大きな古い家の勝手口を開け…
長期滞在者
小学校を卒業した春、家族とともに一週間ほどの里帰りをした。8年ぶりに会う母方の祖父や、いとこたち、おばたちは、まるで初対面の他人のようだった。だけど、彼らはきちんとわたしをおぼえていて、わたしたち姉弟の成長を喜んでくれているようだった。日本での暮らしぶりを知らない彼らは、当たり前のように、わたしをMaysaと呼んだ。不思議なことに、それまでわたしをKeikoと呼んでいた両親までもが、ブラジルではわ…
長期滞在者
はじめて海外で作品が売れたときのことを覚えている これはNYのアートフェアでカップルが買っていったって – – これはコロンビア大学の麻酔科医のところに – – – 意識してアウトラインをひかなくなった 輪郭なんて曖昧なものだから 私と世界が交流している限りは —- —– 増殖しては結びついて こと が…
呼吸
ようこそ、さかさまな世界へ。 エゴとサダメを毟りながら縁と居心地だけで生きてます、ここ最近は特に。 出来事は過ぎた途端に当たり前のようになるし、 わがままは過ぎた途端にどっかにいっちゃうし、 寝て起きたら記憶の細胞はズタボロに死んでるし。 右も左も上も下も、あるようでないようなものだし。 ただ僕はやっぱり自分が奇麗だと感じるものに触れていたい。 そのために必要な要素と、要らない要因を寝転がりながら…
当番ノート 第13期
先週書いた話に、うちの実家家族を絡めるのもあれですが、ちょっと生々しい話をします。 三つ年の離れた妹は、娘ふたりがやっと小学生ではなくなりました。ちょうど一息ついたところで、頻繁に掛かってきた電話が静かになりました。 わたしには、妹の愚痴と、子育てを手伝っている実家の母のそれ、両方を聴き続ける役がありました。母は仕事を持っていて、妹は病気にもなったので、ずるずる仕方なくです。愚痴のステレ…
当番ノート 第13期
それは湯気だ。 熱を帯びた時間は姿を変えて、湯気になる。 熱ければ熱いほどたっぷりとそれは湧く。 視界をぼんやりとさせ、はっきりとは見えなくなる。 なんとなく、別世界に連れて来られた気分になる。 つくることは、その湯気をぐるぐる巻き取って1つものに見せること。 何かしらのストーリーを連想させること。フィクションでも、ノンフィクションでも。 自分や誰かの、目や肌や心にすーっと染みこませることができた…
当番ノート 第13期
朝日が差し込み始めたので、さあ寝ようと思ったが、ふと思い直して洗濯機を回し始めた。 干すまでは寝たくないので太陽を盗んだ男を見始める。 そのままちゃらちゃらとペンを走らせ始めると、眠いのもあって意外に興が乗ってくるものである。 そのまま月に囚われた男に流れたあたりで眠さにペンが負け始め、知らない間に知らない所に線が引かれてしまう。 こりゃだめだとなり寝るのである。 結局、洗濯物も干されずに眠るので…
当番ノート 第13期
フぅ~~~。。。(長い溜息&放屁) いったいこの国はどうなっているんだ? 震災後の原発を巡るいざこざは一向に解決の兆しを見せない。 政治も政治家も狂っている。上がる消費税。苦しくなる一方の生活。 若者の就職なんて、ある訳がない。 こんな国にいったい誰がしたっていうんだ? こんなときに俺たちロックバンドに何が出来る? 「音楽で世界を変えることは出来ない。」 ああ、確かにお前の言うとおりかもしれないね…
当番ノート 第13期
愛とは常に無防備でいること、と俺は思う。 自分を守ることをしないまま、 不安と痛みと幸せを同程度に 受け入れること。 そして傷つく時には思いっきり痛みを感じ、 不安になった時には思いっきり暗闇に落ち、 幸せな時には振り向くことなく光の方へ飛び、 そしてお互いの中に永遠に落ちてゆく。 なんとなくそんな感じ?なぜなら俺は一度もそういうことを体験したことない。 だからこれはきっと… 本当の愛…
当番ノート 第13期
本を読むこどもだった。 小学校の最初の三年間の放課後を、学童保育に通ってすごした。 その前を保育所で過ごしたわたしにとっては、息苦しくもわかりやすい共同の生活。 授業が終わるとまっすぐ。学校の敷地内、隅の隅に立てられたプレハブ小屋に向かう。 体育館の隣に立てられた建物は、通っていない子たちを寄せ付けない見えない線があって、 いいなあと友人たちが帰りながらつぶやくのを聞いたこともある。 靴を脱ぎ入る…
当番ノート 第13期
去年、You Tube で偶然見つけた、坂本美雨さんと矢野顕子さんの親子対談。美雨さんは、去年の秋に出た矢野さんのCDを紹介したくなって、パーソナリティをしているラジオ番組に呼んだそうです。その中で、矢野さんは、キャラが厳しいお父さん風になって、美雨さんは、偉大な音楽の先輩を前にドキマギしている様子でした。先般、亡くなった忌野清志郎さんの曲を読み直すというか、その良さを矢野さんによって再発見しよ…