当番ノート 第55期
「みて。サボテン買ってん」 ある日の夜中、急にわたしの部屋の扉が開けるなり、そう言って上機嫌な彼女はビニール袋に入ったサボテンを見せてきた。手のひらに乗っかるサイズの深緑の球がタンポポの綿毛のような棘を纏い、そこに優しいピンク色の花をポンポンと髪飾りのようにつけていて、それは少し羨ましく思うほどにかわいかった。そしてそんなサボテンを無邪気に自慢してくる彼女が愛おしくてたまらなかった。 彼女はよ…
当番ノート 第55期
こんにちは mopoka です。 (いもぱるしからmopokaに変更) 従姉妹のお母さんが「宝のもちぐされだから」と、フェリシモの500色の色鉛筆をくださった。 私は、500色には到底及ばないけど、いろんな色の包装紙に包まれたリンツのチョコレートをお礼に贈らせてもらった。 たくさんの色は、眺めてるだけでも嬉しい。 けど、工場から出たままの長い姿。これからも長いままなのは、申し訳ない。彼らは、生み出…
当番ノート 第55期
>>通過儀礼4日目 初めてネイルサロンに行った。休日、仕事の関係者と会う用事があり、終わってから久しぶりに山手線に乗ったら昼下がりのがらがらの環状線が快くて、特に予定もなかったので半周以上乗りっぱなしでぼーっとしていたら、原宿に来ていた。 ああ、駅舎が建て替わったのだなあと慣れない順路で改札を出て、とりあえずラーメンを食べたところで、ふとネイルサロンというところに行ってみようと思った。 春の陽気。…
長期滞在者
家から川沿いに100mほど歩いた場所にちょうど富士山が見えるスポットがある。夕暮れの時間にはそこからスマホで写真を撮る人をたまに見かける。 家から富士山までは遠く離れているので、大きさに圧倒されることはないが、ドッシリとそびえ立つ様は見てとることができる。私も安心感を憶えたいときにときどき富士山を眺めていた。 ある日、富士山をどうしても近場で見たくなり、小田原に出かけたことがあった。 昭和の私小説…
当番ノート 第55期
センシュアルという言葉の意味を知ったのは美容ライターをしていた時だった。私が公私共に美容で多忙を極めていたのは数年前なので、今のファッション誌にこの形容詞が登場するのかはわからない。官能的かつ知的で大人っぽい、みたいなニュアンスのあるこの言葉はコスメを紹介する身としては結構便利で、「センシュアルな透け感まぶたを演出するこちらのアイシャドウは〜」などと、おしゃれ用語を多用する文章を書いていた。 一方…
長期滞在者
絶景があるはずだと信じて駆け寄った窓の向こうには、見渡す限りの白い壁が広がっていた。しかも、結構間近に。 出張の予定が入ったからと私が開いたホテルの予約サイトには、「窓辺から横浜港を一望できます!」なんて文言が添えられていたはずだ。交通の便が良く、日程に合う予算範囲内の宿を確保することが一番の目的ではあったが、わざわざ掲げるほどの景勝ならばと、私も少なからぬ期待を抱いてしまった。新潟から電車と新幹…
長期滞在者
30代の頃から始めた難民支援の活動は、いつだって私の世界を広げてくれる。 2021年1月30日。EARTH CAMPのオンラインイベントとして、UNHCR(国連難民高等弁務官事務所)のセッション「クイズで知る難民のいま UNHCR70年のあゆみEARTH CAMPに“Who We Are“」でモデレーターを務めた。UNHCR親善大使MIYAVI、Youth×UNHCR for Refugeesの横…
当番ノート 第55期
「変わった言葉の使い方をするね」と言われることがある。そう言われても、ピンとこない。じゃあどうやって使うのが正しいのか。正しい方がいいのか。 辞書を引いてみることも増えた。言葉でやりとりすることが大切なのはわかる、それでも、同じ言葉をみんな知ってか知らずか少しだけ違う意味で使っている。自分の表現したい「意味」はどこにあるんだろう、って少しぼおっとする。
当番ノート 第55期
この日、この絵で描いた場所に行った日、私とここに描かれている私の友人は、一緒に住む約束をした。 私たちは演劇のスタッフとして出会い、それから私の書いた脚本の舞台に出演してもらったり、定期的に彼女のライブを見に行ったり、たまにお家に遊びに行ったりする仲になった。彼女はどうしてそんなに人に優しくできるの?と不思議になる程、とにかく優しい人だ。あまり自分から何かを喋らず、人の話をどこまでも受け止め聞…
当番ノート 第55期
このアパートメントに、以前入居していらした方。神原由佳さん。 お会いしたこともありませんし、このアパートメントで、記事を読んで、いっぽう的に知った… だけの私なのですが、記事が心地よくて、たまらんくて。 そのレビューの早間果実さんの言葉も、心に絡まりまりまってきて。 じぶん一人の胸に納めておけなく。多くの方に読んでいただきたい衝動にかられ、勝手に絵を描きます。 まず、プロフィール写真を眺めつつ、記…
長期滞在者
子どものころ読んだ本などには、恐竜は体が大きいので尻尾に怪我をしても気づくのに長い時間がかかる、みたいなことが書いてあったけれど、これは現在では否定されていて、彼らはそこそこに俊敏な生物であったらしいということになっている。神経の伝達速度というのはどの動物でもそんなに変わりがなく、ということは人間の20倍ある巨大な恐竜であっても、人間の20倍程度の時間で神経伝達が行われるということだ。人が感知する…
当番ノート 第55期
>>通過儀礼3日目 退屈すぎて、何も覚えていない。 シベリア鉄道、略してシベ鉄完走の卒業旅行は、イルクーツクでの途中下車を経て、後半戦に突入した。ここからは終点のモスクワまで下車なし、4泊のノンストップである。 前半4日は、なんだかんだと物珍しく、2段ベッドの昇り降り、貴重品をさりげなく枕元にうずめて眠る夜、車両連結部にだけ配置された電源にコンセントを差して盗られないように見張りながらスマホを充電…