当番ノート 第57期
梅雨ですね。 幼い自分の想像によると二十歳のおねえさんは、すらっとしていて、働いて一人暮らしをしていて、おしゃれな小物を持ち、上品なお化粧をしつつ落ち着いた所作で生活しているらしい。 さてアラサーの私、働いて一人暮らし、しか当てはまらない。 小さい頃の夢ってなんて残酷なんだ。 「アラサーなんだからそろそろしっかりせにゃ」と私に思わせたのは、恋愛でも結婚でも出産でもキャリアアップでもなく「いい雨傘を…
長期滞在者
毎年6月になると、低気圧のせいか雨のせいか、十分な時間は寝ているものの睡眠がきちんと取れていない気分になる。 例年通り今年も安眠にはほど遠く、朝はすっきりしないが、今年はヨーロッパの各国サッカー代表によるEURO大会が行われているので日々の楽しみが少し増えている。試合の時間帯が、日本時間の深夜1時もしくは4時であるため、リアルタイムで見ることは諦め、朝起きて、朝飯を食べながら早送りして試合を見る。…
当番ノート 第57期
驚くなかれ、採用面接の真っ最中に落とされたことがある。 聞く限り、身の回りでそんな経験をしたのは私だけだ。 帰宅する頃には結果を送ってくる企業はあれど、まさか会場で落としてくるとは。 志望はとある老舗文具メーカー。 ちょっと古風でお堅い感じはあるけれど、文房具は好きだし押さえておきたいなと思っていた企業である。 トントンと駒を進めていき、ここを突破すれば社長面接、すなわち最終面接というところまでき…
長期滞在者
35歳の僕は夢のエネルギーで、全身満ち溢れていました。 35歳といえば、もう中年のおじさんと言っても良い年なのかもしれませんが、20代の頃よりも、若さと情熱で生き生きしていました。 僕は34歳で自分の夢を見つけ、ただひたすら、進んでいました。 僕の夢は「妖怪になること」です。 都内の病院で月給14万円ちょっとの夜勤当直の契約社員をしながら、仕事明けに井の頭公園で、 「夢はかなう!! …
長期滞在者
この身体が動くからこそ、私はマイクの前にいることができる。ストップウオッチを握って、イントロの秒数でおさめる曲紹介の緊張に鼓動を高め、スタッフと真剣に言葉を交わして番組を作って、収録を終えたときの安堵と体温の高まりを感じられるのも、生きて、健康な身体があるからこそだ。 2015年。戦後70周年を考えるラジオ番組『THINK OF TOMORROW』を制作したときに、漫画家の水木しげるさんに「希望を…
長期滞在者
旧知のM君が写真集を出版した。以前から『IMA』などに採り上げられているものも見ていたし、何度か展示を見たりもしているけれど、実のところ、いつも彼の写真はよくわからない。そもそも「写真」かどうかもわからない。フォトグラム(本来は印画紙の上に物体を置いて直接露光したり、カメラを使わずに画像を生成する手法)の亜種、という説明だが、その説明では何が何だかさっぱりである。最近のものを見ると、まるで電子顕微…
長期滞在者
ルーニィは、5月18日以降いつも通りの営業を再開していますが、来場者数はいつもの2割くらいで、とても静かな毎日です。というか、今年の入ってからずっとこんな感じだったような気がしています。ぼくにしたって、いつも観て歩く展覧会の半分も回れていないわけですから、どこも空いているようです。 15時ごろに近所のギャラリーにちょっと立ち寄ると、今日最初のお客様です、なんて言われることもしばしば。事業継続のため…
当番ノート 第57期
ほぼ毎日「誠に申し訳ありません」と書かれたメールを、両手では数えきれない数送っている。タイトルはそんな私のお気に入り謝罪文のうちのひとつである。 ちょっとした食い違いなどが起きてしまったり、名前を打ち損じていたり個人的に「危険度中」認定レベルの事態に使われている。メールを打ちながら自然と眉間にシワが寄って、送信ボタンを押す時には無意識に息が止まる程度のそれ。 あまり行き届かない人間であるために謝罪…
お直しカフェ
暑いような、まだそこまででもないような。アイスコーヒーが美味しい季節になった。私は春先を過ぎると、だいたいお店やコンビニでコーヒーのH/Iが選べるとき、条件反射的に「アイスで」と頼んでしまう。少し暖かくなって今年もそんな季節が来たなという嬉しさと、氷の入ったグラスでカランカランとやってくる小さな贅沢感、アイスの方がハズレのコーヒーに当たる確率が低いから、云々。という訳で、アイスコーヒーは今年既に飲…
長期滞在者
祖母が死んだ。感染症のこともあり、私は葬式に参列しないことになった。死に顔を拝めず、見送りもできない。死の実感がないまま過ごしている。 原因不明の咳が続く。なんとか生活しているというより、生活があるおかげでかろうじて寝起きしている。日常のありがたみをこれまでは感じてきたけれど、こんな日常を送っていていいのだろうかと今は疑問に思う。汽車はずんずんと進んでいるのに、途中線路の上でバラバラの部品になるの…
当番ノート 第57期
唐突だが、日本で一番真面目にお姫様ごっこに取り組んだ女児であったと自負している。 幼稚園児の頃、ディズニープリンセスの小物を身につけキャラクターになりきる友達を見て(それはお姫様ごっこって言わないんだよな〜)とちょっとした違和感ををおぼえていた。 貴女方はお姫様ごっこではなく「ディズニープリンセスごっこ」をしているに過ぎないの。本当の「お姫様ごっこ」は自分の中にある姫マインドを極限まで引き出して、…
長期滞在者
人と話すのがとても苦手だ。テンポの良い言葉のキャッチボールというのが難しい。気が利いたこともなかなか言えない。「おはようございます」と「こんにちは」も上手く言えなくて、先日、モネの夕方の散歩でいつも会うポメラニアンを連れたおじさんに「おはようございます!」と言ってしまった。私とモネの後ろに長い影ができていた。 気の利いた褒め言葉がぱっと出てくる人は羨ましい。私自身もそうだけど、やっぱり褒められると…