-
それをエンジェルと呼んだ、彼女たち。
ジェニーは褐色の肌が美しいアメリカ人。私の一番最初のホームステイ先の女の子だった。中学2年生の夏、2週間弱のプログラムでアメリカ・テキサス州のガルヴェストン島を訪れた。地図で見ても大陸に比べてあまりに小さい、田舎に思えたその島が、私にとっての最初の外国だった。 外国への熱意だけで参加した当時、私は「言葉が通じなくても大丈夫」という自信に満ちていた。なんとなく、「心で通じあう」ことはこちらの熱意次第…
-
それをエンジェルと呼んだ、彼女たち。
私が小学生のときに道端で出会っているから、姉さんとの友だち歴はもう20年近くなる。親子ほど年の離れた私たちが「友だち」というと周りの人たちは少し意外そうな顔をする。ほかにちょうどいい言葉が見当たらないのだ。会話をしているときの調子は友だちに見えるだろうし、一緒に出かける姿は親子にしか見えないかもしれない。今ではどちらもしっくりきてしまう。 私たちの最初の共通点は、ほぼ同時期に、同じペットショップで…
-
それをエンジェルと呼んだ、彼女たち。
「まずはひたすら真っ直ぐ、平たく、均等にできるようになるところから。間違えたら丁寧に解いて、そこからまたはじめましょう」。ロンドンの唯一無二な老舗百貨店「リバティ」の手芸フロアの店員さんはそう私に念を押した。確かに基礎はどんなことをはじめるにしても肝心に違いない。でも、ピアノならハノンの練習より楽曲の練習をしたかったし、編み物なら単調なスヌードよりティーコゼーがつくりたかった。私の飽き性や堪え性の…
-
それをエンジェルと呼んだ、彼女たち。
お正月はいつも居心地が悪い。何事にしても、いっせいに動いたり停滞する空気に弱いのだ。違う空気を吸いたくて、早朝に出かけた。絶望的なほど朝に弱い私は、朝日を見たいだなんてあまり考えたことがなかったけれど今年はそんな気分だった。それに、日の出の遅い冬の間は朝に弱い人でも比較的日の出をみるハードルが下がるシーズンなのではないか。夏はとうてい間に合わない。 都心から1時間弱、大好きな港町に向かってまだ暗い…
-
それをエンジェルと呼んだ、彼女たち。
大学生の頃、旅に出ることだけが本当に魅力的で、ほとんど大学にいない大学生だった。ユースホステルを渡り歩く贅沢をしない旅行でも旅費はそれなりに掛かるのもので、私は3つのバイトを掛け持って旅費を貯めた。 ただ、稼ぐという点においては非効率な職場ばかり選んでいたように思う。食堂の給仕兼洗い場と寂れ切った居酒屋の接客、そしてポストカード専門店の販売スタッフ。このなかで1番好きだったバイトがポストカード屋さ…
-
それをエンジェルと呼んだ、彼女たち。
何かを綺麗だと感じて、それを伝えたいと心に浮かぶ人がいる。美しいと感じることをあなたに伝えたい、と思うことは愛に近いと言ってもいい。 そこまで考えて、ロシアの映像作家、ユーリ・ノルシュテインのアニメーション「霧につつまれたハリネズミ」が自然と思い出される。主人公のハリネズミ、ヨージックが森の仲良しのコグマに会いに霧の中を歩くあいだの出来事を10分ほどで描いたアニメーション。ヨージックとコグマは毎晩…
-
それをエンジェルと呼んだ、彼女たち。
見知らぬ女の子を家に泊めた、そんなことを最近思い出している。 彼女とはmixiを通じて出会った。どうしてコンタクトを取るようになったのかはすっかり思い出すことができない。大学2年生の頃だったように思う。彼女はひとつほど年下の京都の美大生だった。 思い出せる最初のやりとりはこうだ。 彼女が東京に遊びにくるという時に、mixiで知り合った見知らぬおじさんの家に泊めてもらうという話を聞いて「ちょっと待っ…
-
それをエンジェルと呼んだ、彼女たち。
インドの友人、ソナルの家族は彼女の婚約者、前夫との長女、ミャンマーから養子に迎えられた次女、叔母さんの4人家族。そこに住み込みの若いメイドさんふたりとシッターの中年女性、心優しいけれどやや天然なドライバーが加わると8人家族。今回はソナルの叔母さん、ディディのことをお話しよう。 ディディ(インドで年長の女性を慕って呼ぶときの「お姉さん」という意味合いの言葉)は、陽気で優しく、60代とは到底思えないよ…
-
それをエンジェルと呼んだ、彼女たち。
人生を通り過ぎて行くもののなかで、絵本や小説に出てきた登場人物もまた、私のなかに強い印象を残している。ときには実在する人以上の存在感を感じることさえある。物語のちからは強大だ。 「おっきょちゃんとかっぱ」という、小さな女の子が川底のカッパの世界に行ってしまうお話を、夏になると必ず思い出す。おっきょちゃんはひとりで川遊びをしているときにカッパのこどもに出会い、誘われるまま川底でのカッパのお祭りに行っ…
-
それをエンジェルと呼んだ、彼女たち。
この連載のはじまりで、私が東京で最初に暮らしたアパートでの不思議な出会いに少し触れた。東京の外れの女子大に通う5人の女の子と、ひとりの初老の外国人の共同生活の話。最初このお話は「あっさりと語るべきだ」と思った。あまりに強烈な愛情と衝撃が渦巻いた、この時期を経て私は完全に違う生き物になってしまったと言わざるを得ないような時期の出来事だったから、その場にいなかった人も耳を傾けてくれるように「できるだけ…
-
それをエンジェルと呼んだ、彼女たち。
彼女のフェアなところが好きだ。 時々「きっつーい」と思うけれど大概その場で納得してしまう。だからあれだけ欠点や誤ちをビシビシご指摘いただいているにもかかわらず、嫌な気持ちを抱いたことがない。むしろ、ちゃんと言ってもらいたくて、ひとに言えないことほど彼女にだけ話してきた。 そういえば長い間、彼女はあまり自分のことを話さなかった。代わりに家族や学校生活や趣味についておもしろ可笑しく親しみを感じさせなが…
-
それをエンジェルと呼んだ、彼女たち。
彼女は山中湖行きの高速バスで隣の席に座っていた。 大きなバックパックを携えたアジア系の可愛らしい女の子は目的地に着く約2時間ほどのあいだイヤホンで音楽を聴いていたから、私たちは黙って隣あっていた。だけど最後のほうで彼女から降りるべきバス停について尋ねられたことをきっかけにお互いの名前を知った。彼女はマカオから初めて日本を訪れていると言う。 GWで賑わうなか、私たちはどちらもひとり旅だった。バスを降…