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2F/当番ノート

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当番ノート 第1期

「六角堂ってここからどうやって行くんですか?」
柳馬場六角の交差点で修学旅行中らしい学生三人に呼び止められた。
京都市内で暮らしていると道を聞かれることが多い。聞かれることが多いよねぇ、と話すと「そうかぁ?」と知人。道を聞かれたことなど一度もないと言う。道を聞かれやすい人というのがいるらしい。僕はそうなのだろう。
「このまま真っ直ぐ行けば右手に見えてくるよ」言い終わるより先に指さす方へ三人は駆けていった。女の子二人、男子一人。
今日は二回目だ。
さっきは富小路蛸薬師で「醍醐寺ってここから近いんですか?」とだいぶトンチンカンなことをおばさんに聞かれた。あまりにもここから離れすぎているので「この道を真っ直ぐ行くと地下鉄の東西線っていうのが走ってますから、それに乗って“醍醐”っていう駅で降りてください。そこで降りてから道を聞いた方が正確ですよ」と答えた。
「ここって東山じゃないんですか?」
「違いますよ」
「違うんですか?」
「違いますよ」
「ここはどこなんですか?」
「ここは中京です。東山はもっと向こうです。鴨川を渡った向こうです」
おばさんはなんだか附に落ちないという顔をして、東西線の方へ歩いていった。そもそも醍醐寺は東山でもないよなぁと思いながらおばさんを見送った。
少し不親切だったかなと思ったが、うそを教えて道に迷わせるよりはずっといい。これが僕の教えてあげられる精一杯の正確な道順だ。

御池通りの方へ向かって歩いていると、とんだミスを犯していたことに気づいた。
さっきの学生たちに教えた道順がまるっきり逆の方向を教えていたのだ。東西がアベコベだ。六角堂と言われて頭の中でまったく別のお寺が浮かんでしまっていた。ぽかぽか陽気で頭がぼーっとしていたのかと思ったが、それは違う。雪がちらついて風がビュウビュウ吹いているのだから。ただぼーっとしていただけのようだ。
「まだ間に合うかな?」と学生達と出会った交差点の方を振り返ったが、やめた。
そうだ。
彼らは「六角堂ってここからどうやって行くんですか?」と聞いたのだった。
「近道を教えてください」と聞かれたのではなかった。

うそを教えてはいない。真っ直ぐ行けばきっと着く。歩き続けていれば、いつか必ず着く。

地球は丸いのだから。

中川 雅史

中川 雅史

1978年生。
茨城県土浦市出身。
現在、京都市在住。

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