「まっちゃんのにおいがすると落ち着くの」
と妻がいう。
「ならんで歩いていると、
風に乗ってまっちゃんのにおいが
流れてくるの。
春になってから、
においがつよくなったよ」
妻は、春が好きだという。
空気がぼんやりするから好きだという。
むかし会社勤めをしていた頃、
ちょうど今くらいの季節、
朝、いつものように家を出た妻は、
会社へ向かう途中で、
あまりにも空気があたたかくて
ぼんやりしていて眠たくて、
とてもいい気持ちだったから、
携帯電話を取り出して、
「今日は休みます」
と、上司に電話をしたという。
僕はその話がとても好きで、
聞くたびにいいなあと思ってしまう。
願わくば僕は、
妻にとっての春のようになりたいと思う。
生きていると、いろいろある。
なんだか、かんだか、いろいろあっても、
僕がいればとにかく、
安心して眠れるような、
そういう存在でありたいと思う。