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2F/当番ノート

煙草について

当番ノート 第2期

 3年前にやめた煙草を、3ヶ月前からまた吸いはじめた。
 煙草を吸うことは好きだ。
 煙草を吸うあいだ、僕は他のことをしない。
 仕事をしながら吸ったりしない。
 携帯を見ながら吸ったりしない。
 ただ吸う。
 できれば外で吸う。
 たとえば家のベランダで吸う。
 目のまえの風景をぼーっと眺める。
 青空駐車場にならんだ車のフレームが光っている。
 木々が枝を触れあわせてさらさらと揺れる。
 風が頬をなでる。
 遠くの路地を、乳母車を押した老婆が歩いてゆく。
 おなじ道を、若い男女が笑いながら歩いてくる。
 老婆と男女がすれ違う。
 老婆は乳母車をすこし路肩に寄せる。
 男は女を先に行かせて、ふたりは一列になって歩く。
 乳母車、老婆、男、女が、ひとつの塊になる。
 その一瞬。
 僕は目を閉じて、煙を深く吸いこむ。
 煙草の葉がチリチリと燃える音を聞く。
 甘いバニラの香りが鼻に抜ける。
 まぶたのむこうで老婆と男女がだんだん離れてゆく。
 煙が、のどを通って肺に届く。
 頭がぼおっとする。
 からだが少し浮いたようになる。
 そっと目を開ける。

 世界は、美しいと思う。
 

 

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