海釣り公園の立て看板や、子ども向けの磯遊びの本にはたいてい、「きけん!ぜったいに さわらない」という注意書きとともにハオコゼが紹介されている。確かに、ハオコゼに刺されるととんでもなく痛い。小学生の頃に、淡路島の釣り公園でふと油断して右手の親指を刺されたことがあった。ぐさっと刺さったわけではなくて、ほんのちょっとひれの毒針にかすっただけなのに、見る見る親指が腫れ上がって、その後数時間は心臓の鼓動に合わせて手首から先がガァンガァンと痛かった。痛みが引いてからも数日間は腫れっぱなしで、左手の親指と比べてみては「まだ右の方が太い!腫れてる!」と思ったものだけれど、あれから18年ほどたった今も同じように両親指を並べてみると右の方が太いので、どうやらもともと右親指のほうが太かっただけのことらしい。
おこぜというと、(毒の種類は違えど)ふぐとともに一歩間違えれば死ぬほどの強毒と極上の白身、それにエキセントリックな見た目の三位一体という点で魚の世界の奇才としての地位を揺るぎないものにしている。けれども、小さすぎて食べる身もほとんどないハオコゼは、釣り人も料理人も歯牙にもかけない。中には「ハオコゼが釣れてしまったら、危ないので糸を切って逃がしてしまいましょう」などと書いてある本もあるのだけれど、そうすれば当然そのハオコゼは口に釣り針が刺さったまま残りの生涯を送ることになるので、できるだけ針は外して逃がしてあげた方がいいと思っている。
そんな嫌われ者のハオコゼだけれど、その魅力はなんといってもかわいらしいことで、鱗が退化して剥き身のようにぷっくりした無防備なおなかはついつい指でつついてみたくなる。背中にずらりと並んだ毒針も、「本家おこぜ」たるオニオコゼの悪魔的な長い毒針が乱雑にあちこちを向いていてどこから手を出しても刺されそうなのに比べれば、まったくもって微笑ましい。そして、色。ハオコゼの名の由来は、釣り上げたときに毒針をピンと立てた様子がまるで歯を剥いているようだから「歯オコゼ」、枯れ葉のように見えるから「葉オコゼ」など諸説あるようだけど、もみじのような色だから「葉オコゼ」の説が一番しっくりくる。確かに、釣り上げられたハオコゼの姿は、小さなもみじの葉に似て美しい。