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虫の譜|ハラヒシバッタ Tetrix japonica

虫の譜

Tetrix_japonica

ヒシバッタは、その名の通り上から見るとひし形をしたせいぜい1センチほどの小さなバッタだ。たいてい地面にいる。バッタと言うと草の上にいて緑色で細長いのがスタンダードだから、知らなければ彼らを見かけてもバッタだと気がつかないかもしれない。ひとたび存在を認識すれば、そこここで目にする普通種だ。

かれらの面白さはバリエーション豊富な背中の模様にある。色も柄もさまざまで、個体差の大きい昆虫の例としてよく取り上げられている。そして美しい。地面に溶け込む迷彩柄として機能しているのだろうけど、そうすると当然「それがこんなに美しいということはつまり、地面ってこんなにきれいなのか?!」という疑問が浮かんでくる。そこで地面を眺めてみるのだけど、地面の美しさのほうはよくわからない。自然ってすごいな、という大雑把な結論だけ出して考えるのをやめることにする。

もう一点、かれらの魅力として見落とせないのが見事に均整の取れたプロポーション。それは逆に、背中の美しさに気をとられていては気付けない。
上から見たひし形のかれらは、模様は美しくはあるがどちらかというとちんけな虫だ。それが捕まえて手の中に見てみると、バッタの中でも最も美形のトノサマバッタに似た堂々たる美貌である。その顔が大きめなものだから余計に愛くるしい。寸詰まりの体やぷりっとした後脚も、羽かと思いきや実は胸部が甲羅みたいに後ろに長く覆いかぶさっている背中のパーツも、バッタ本来の(?)美しさを寸分も損ねることなしに可愛くデフォルメに成功している体(てい)だ。

このデフォルメの心地よさ、小学生の頃にカードを集めた2頭身の「SDガンダム」に似ている。Wikipediaで見てみると、「SDガンダム」シリーズは元々のガンダム(スタイルいいやつ)に馴染みのない世代や子どもたちをガンダムファンにするのに一役買ったらしい。ある面においては元のガンダム以上に魅力的なSDガンダムを生み出した人間のデザイン力は凄いものだし、それが自然に行われて生まれたヒシバッタも、只者ではない。

長嶋 祐成

長嶋 祐成

魚の絵を描いています、広告系の制作会社の営業をしながら。
魚は見るのも飼うのも釣るのも食べるのも、みな好きです。
学生の頃に好きだった思想とか哲学のようなものが全部さらさら流れ落ちた今の自分が好きであると同時に、色味のなさに不安になったりしてます。

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