この
家の風呂場の壁に
ぴったりと張りついている
この
小さな虫は
今から私が
お湯をかけて殺そうとしていることに
気づいているかしら
この
小さな虫は
気づいていない
ただ
本能で感じとり
逃げるだろう
この
小さな虫の
生き延びようとする
その心は
化粧をし
良い服を着
過剰気味の食事をして情報過多の毎日に翻弄され
人の視線を気にする私には
失ってしまった
能力だ
今
お湯をかけて流されようとしている
この
小さな虫は
私だ
でも
逃げきれるだけの
羽が無い
暁月上ル著『未完の月』より