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2F/当番ノート

なまえのはなし

当番ノート 第6期

「みおのなまえは青森のおじいちゃんが
 かしこくて誰からもあいされる
 うつくしい人になりますようにと
 願って、つけてくれたんだよ。」

小学生のころ、こんな宿題があった。
自分のなまえの由来を両親に聞いて
それについて作文をする。
最後にクラスメイトの前で発表するというもの。

生まれたあとすぐに撮られた8mmビデオ
産婦人科のベビーベッド
大きくかけられたわたしのなまえ
続々とお母さんのもとにやってくる
お母さんの両親、兄弟、友だち。
もちろん、わたしのお父さん。
みんな嬉しそうにわたしを呼んだ。

生まれた瞬間から、わたしはなまえを持っていた。
きっと、わたしがお腹の中ですやすや眠ったり
ときにはお腹を蹴ったりしたあたたかな日々。
ずっと守られ続けてく
こどもであるわたしの最初の日々。
生まれる何ヶ月も前に、願って、愛を込めて
わたしは外の世界から呼びかけられていた。
わたしはなまえと一緒にこの世にうまれた。

わたしが両親に自分のなまえの由来をたずねたのは、
小学校の宿題。今のところこれが最初で最後。

わたしのなまえは「とまべち みお」といいます。
「とまべち」は、お父さんの実家がある青森の地名。
「みお」は、お父さんのお父さんがつけてくれた名前。

漢字だと「苫米地 美緒」と書くのですが
画数もわりと多いし
きゅっとつまってる感じがするし
なんだかカクカクしてるし
どう読むの?って訊かれるし
音としてはいってきづらい苗字なので
必要なとき以外はあんまり使いません。

「美 緒」の「美」。
だれになにを説明するまでもなく
うつくしい
きれい
すぐれている
そんな意味のある字です。

「美 緒」の「緒」。
「情緒」はこころ。
こころといっても、それは私だけのものではない。
わたしのこころを突き動かすのはいつも
誰かの言葉や動作、周りで起こるいろいろの現象。
おおきな輪の中にたたずむ一部としてのわたし。
わたしの中に「たった1人で生きてる」という類いの
思ってもみない傲慢さが顔を出せば、
あたりまえにそれを打ち砕く。
いつも、こころは「動く」のではなく
「動かされている」のだと教えてくれる。

「へその緒」はいのち。
つながってきた糸。ながくつづいてくこと。
わたしにとってはそれよりも、つづけてくこと。

わたしが知ってる言葉はこれくらいだったけれど
はじまることとして「端緒」という言葉がある。
のこったものとして「緒余」という言葉がある。
ものごとの順番として「緒次」という言葉がある。
「緒」という一文字で「いとぐち」と読む。
きっかけそのもののことだったりする。

「苫米地」という変わった苗字は
わたしという人間をあらわしたり
誰かに認めてもらうこと自体に
深く関わってきたような気がする。
それがあまりにぴったりだったからか、
「なまえ、美緒って感じがしないね。」と
言われたことも、けっこうある。
本当のことを言ってしまうと、
これまでわたしは自分のなまえを
あまり気に入ってはいなかった。
それに、たいせつな友だちは
わたしのことを「べちこ」と呼ぶのだけど
わたし、その呼び方がとても好きなのです。
すっごく、わたしっぽい!
それにそれに、なまえを呼ばれることに
あまりにも慣れてこなかったものだから
今だってなまえで呼ばれるのは
いつもちょっと気恥ずかしい。

「ものごとには順番というものがある。」
これは、わたしのちょっとした口癖。
(よく考えたら両親から継いだ言葉だった。)
いのちはつづいてくのではなく
わたしがきちんと続けてくもの。
こころはいつも、
うつくしいなにかに動かされている。

なまえについて考えることはあまりなかった。
それでもわたしは願われたいのちなのだ。
いつのまにかだったけれど、大事に受け取って
その願いに寄り添うようにして歩いている。

願いのなまえは、わたしが一生かけて守ってく祈りだと思った。

わたしにとって
なまえを呼ばれるということは
気恥ずかしい以上にとても特別なこと。
あまりにも尊い、祈りの音がする。

迷って、それでも立ち止まれなくて、
振り返って、泣き崩れて、目をつむって。
手も足も出ない。ああなんて暗いの。

旅にはどうしようもないときもあるだろう。
そんなときに、そのひかりのような音は
きっとわたしをさらう指針となるだろう。
わたしはなんにも分からないままの手探りで
それでも射す音に手を伸ばすだろう。

みお みお みお

生きていると ときどき、
わたしのなまえをこの世で一等にただ、
うつくしいもののように呼ぶ声に出逢う。
そのことを考えるとなんだか
いつも泣きそうになってしまう。
こぼれ落ちそうなときも、わたしの裾を
きゅっとつかむあたたかくてやさしい声の波々。
いとおしい声のする方へゆら、と体を傾ける。
わたしのなまえを呼んでくれてありがとう。
これからもわたしのなまえ呼んでほしいと思うから
わたしがわたしで在り続けられたら。
いま、そんなふうに思うのです。

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前々回もお知らせした
SIGHT BOX Gallery企画
グループ展「あのね、」が
いよいよ明日からスタートします。

ギャラリーは東京都町田市にありますので
都心からは少し離れていますが
会期も3週間と長めです。
ぜひぜひ、いらっしゃってください。

SIGHT BOX Gallery企画展

「あのね、」

会期:2013.01.12(土)~02.01(金)
場所:町田 SIGHT BOX Gallery
   
   東京都町田市中町3-5-6 1F

tel : 042-720-2305 (Beat Box Cafeと共通)

かみはら えみ

とまべち みお

長谷川 珠実

原田 教正

森 勇馬

わかばやし まりあ

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