旅の途中、風変わりな女の子に出会った。
旅と言っても、いつも遊んでいるりんごの木から、1、2、3本ともっと先の、まだ登ったことのないりんごの木まで。
お昼ごはんから晩ごはんまでの、短い旅ではあったのだけど。
このあたりでは見たことのない女の子だった。
風変わり、というのは彼女のあたまのことで。
好き放題に伸びた長い長い髪の毛が、別の生き物のように
うねうねと風になびいて、なにかから守るように、彼女の顔を包んでいる。
覆いかぶさるそれは、例えるならそう、さなぎの”ころも”みたい。
”ころも”の中でまどろむ時間を繰り返す、古城の主。
かたく結ばれた唇に、ちょうちょになんてなるものかと、宿る意志。
何かを遠ざけているみたい。
長くどしりとしたそれは、例えるならそう、ずうっと同じ場所にい続ける”老いた木”みたい。
何年、何百年、何千年と
根っこに隠したひみつを守り続ける、森の番人。
どんなひみつを守ってるのかな。
何かから遠ざけていて、何かから守っている。
ひょっとしたら、とても大事なたまごを
あのあたまの中で育てているのじゃあないかしら。
割れないように。
落とさないように。
しんでしまわないように。
木の陰から
彼女のうねうねとなびく髪の毛をじっと見つめていたら
こちらに気づいたようで
パチリ
ぼくたちは目があった。
「こんにちは、知らないお嬢さん。みょうちくりんな頭をしているね。」
「はじめまして。知らないねこさん。あなたもとってももじゃもじゃだけど。」
「毛皮だからね。これがないと、風邪を引いちゃうんだ。このもじゃもじゃが、ちょうどいいんだ。」
「あたしも同じ。これがないと、とてもさむいの。これぐらいが、ちょうどいいの。」
新緑の匂いをたっぷりふくんだ風が、ビュオンとひとつ、強く吹いて、
さなぎのような、森の木のような、鳥の巣のような
へんてこな彼女の髪の毛が、やわらかく、大きく揺れる。
今度はどこか遠い外国の、食べたことのないお菓子のように見えた。
「それじゃあまた。」
「ええ。またどこかで。」
どちらからともなく、ぼくたちはさようならをした。
知らないりんごの木まで辿り着き、木のてっぺんまで一気に登る。
頂上からあたりをぐるりと見渡す。さっきいた場所に、あの子はもういない。
ぼくの旅は、あとはもういつもの場所に、帰るだけ。
”これがないと、とてもさむいの。”
5月のお日さまがこんなにあたたかいのに?
あの子のひざの上に乗ってあげればよかったかな。