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2F/当番ノート

2019年8月1日(月) スナックと蛙と友人と。

当番ノート 第46期

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1軒目の酔いがいくらか覚めてきた頃、わたしは友人ふたりと新宿のどこか(覚えていない)にあるスナックのカウンター席に座っていた。

わたしたちの他に、お客さんは5組程度だった。人生で数回目のスナックだけど、見知らぬお客さん同士が狭い空間のなかでカラオケをしたり、女の子がお酒を注いたりする光景というのは、なんというか、異世界だ。

自分がいる場所よりも、1メートルくらい上の方から見下ろしている気分になっているわたしの意識は、また別の異世界に移っていた。

今年5月、北海道斜里郡にある「神の子池」のそばをウロウロしているときに出会った異世界。

((((ゲコゲコゲコゲコゲコゲコゲコゲコゲコゲコゲコ)))) ←何重にもなっている。

蛙だ。鳴き声がする方向に歩くと、長い時間をかけて自然と水が溜まってできたような直径5メートルほどの沼(池?)みたいなものがあった。

((((ゲコゲコゲコゲコゲコゲコゲコゲコゲコゲコゲコ)))) ←近づくたびに、大きくなる。

想像できないほどの数がいたのだと思う。ときどきゆれる水面に、何匹かの蛙の姿を見た。

kaeru

しばらくの間、近くで姿が見えた蛙を観察していた。なんてかわいいんだ。

ここにいる蛙、全匹を見たらと思うと、それはそれでゾッとするような気もする。けれど、目の前にいる何匹かの蛙に関しては、大切にできるような気分になった。

「それなら多分、この異世界を守らなければいけないんだろうねぇ」なんてことをぼんやりと考えている自分に気づいたとき、「ああ、もっと自分の小さな世界も大切にしていいのかもしれない」とも思いはじめた。

どこか場違いなわたしの意識がスナックに戻ったのは、友人が選曲した星野源の『SUN』を聞いた瞬間だった。

〜♫

めっちゃいい声だった。スナックという異世界から切り分けようとしていたわたしの意識が、グッとわたしたちの世界に近づいた。楽しそうにしている目の前のふたりをみていると、「なんかええなぁ」と、あのときの蛙を見ている気持ちと重なってしまった(ふたりの顔が蛙に似ていた訳ではないけど)。

終電の時間が近づいてきた。まばらに帰りはじめるお客さんたちと同じように、わたしたちも、スナックを後にした。

翌朝、頭痛で目が覚める。相変わらず飲みすぎてしまっていた自分を反省しつつ、蛙とふたりが重なったことを思い出してすこし笑えた。

細野 由季恵

細野 由季恵

1986年生まれ、札幌出身。フリーランスの編集者です。

Reviewed by
ハヤシ ミユウ

細野さんの日常の中にある、自分の小さな世界と異世界。
自分と重ねてみて...わたしが守りたい小さな世界ってなんだろうなぁと、ぼんやりゆるゆるな時間が流れました。

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