引っ越すことにした。
とはいえ同じ区内での引っ越しなので部屋が増えるくらいのささやかな環境の変化だ。
引っ越しまで一週間を切った。荷造りやら何やらをして、少し疲れたらお茶をいれる。
いつものようにこの部屋の窓から外を眺める。 毎日目にしてきたありふれた風景がそこにある。
今よりも少し若かった私は、逃げ出す理由もないほどいい暮らしをさせてもらっていた実家から逃げ出すようにしてここへやってきた。
そのきっかけは先にこの部屋に住んでいた同居人がこちらで職を探すことを勧めてくれたからで、遠慮というものを知らない私はわりとカジュアルに転がり込んだ。
私たちは互いに、誰かと暮らすことが「無理」に入るたちである。
ルームシェアも早々に解消されるかもしれないなと思っていたが、ぼんやりしていたら6年も経っていたから人生というものはよくわからない。
繰り返す日々の中で、ここで泣いたり笑ったりつまらんことでもめたり本気の喧嘩をしたり、ご飯を食べたり寝たり起きたり仕事を頑張ったりサボったりした。
誰かと一緒に生活することがこんなに愉快で楽しく、時に煩わしく、それでいて心の底から安心できることだなんてまったく知らなかった。
人生はよくわからないし、人との出会いもよくわからないものだ。
この連載は今回で終わるが、生きている限り「かれら」という大切で印象深い存在との出会いはたびたび訪れるだろう。
長く短い旅路である。
私が私であるいまこのときは一度しかなく、あなたがあながであるいまこのときもまた、一度しかない。
今度どこかで会えたら、次はあなたの出会ってきた「かれら」について話を聞かせてほしいなと思っている。