当番ノート 第16期
50人くらい入れる静かで真っ白なスペースにいくつものボトルが整然と並んでいます。それらは、アタックなど市販のプラスチックの洗剤容器だったはずです。しかし表面がやすりで削られ、何の商品かは分かりません。 今年の5月、東京都現代美術館で「フラグメントー未完のはじまり展」を見ました。この展示は、断片的な情報が氾濫する現代において、その「断片」との向き合い方、あるいは「断片」の受け入れ方をわたしたちに提案…
当番ノート 第16期
世界の片隅の扉の向こうに、その町があり、その店がある。 ”階段オルゴール屋” 住所:ツバメ町 Y地区 樫の小路 店主はこう語る——— 「いらっしゃいませ。……あれ、見ない顔だね。もしかして”外”からのお客さんですか。では、”ツバメ扉”に気に入られたんだね。この町に入るとき、”ツバメ扉”を通ってきたでしょう。たいていは、あの扉はかたく閉じていて、”外”の人が通れることは滅多にないんだけど。”…
当番ノート 第15期
ぼくは二十代の後半まで、まるで英語が話せなかった。これから英語で話す内容を頭で組み立てているうちに初歩的な文法や発音の間違えを人前でするのが恥ずかしくなったり、話すタイミングを失って話題は既に次のトピックに移っていたりして、英語を話す事、ということはまるで濁った川の底から無くした鍵を見つけ出す様に手探りをするかの様な心許ない事だった。 日本語以外の言葉を話す、という事はぼくに違う生き方が出来る事を…
当番ノート 第15期
気づいたら東京地方も梅雨が明け、すっかり暑くなりました。 連載期間中に痛めた腰も少しずつ回復に向かっています。出張続きで干せなかった梅を、今週こそ見計らって干したい(これを土用干しといいます)ところです。 実は先日まで連載回数を全8回だと思っており、前回の「遊びをせんとや」で終わりにするつもりでした。では最終回はビデオダンス作って〆ようかなどという目論みはもろくも崩れ、あとがき的な雑文で後を濁して…
当番ノート 第15期
新米に、触れる。 毎年、ドキドキします。 今年のお米はどうかな? 草みたいな味になってないかな? 水分量はたっぷりあるかな? 米粒が、大きいかな? 小さいかな? 新米を、食す。 これもまた、ドキドキします。 風味はいいかな? 弾力はあるかな? 割れ米はないかな? 毎年、最初の一口を食べる瞬間は、緊張します。 それが、これまでの田んぼ仕事の成果、すべてだから。 このお米を売りながら、一年間、家族が生…
当番ノート 第15期
ぼく達の住んでいた家の一階には一人の女性が住んでいた。 引っ越して来て始めの数ヶ月は挨拶を交わす程度で距離を置いた付き合いだった。彼女の部屋の前を通るといつも開け放した窓からEva Cassidy やSting のFeilds of Gold の曲がそよ風がレースのカーテンを揺らしながら流れ出る様に聞こえて来た。クチナシとイチジクのキャンドルを燃やす香りがいつもそこはかとなく漂っていて、何かスピリ…
当番ノート 第15期
先日、フラフープ仲間が「The Hooping Life」というドキュメンタリーフィルムの上映会を催してくれました。撮影されたのはもう5、6年前で、登場するのはフープダンス黎明期の立役者たち。現在もなお第一線で活躍するフーパーもいれば、すでに一線を退いて違うビジネスに乗り出している方も登場していました。 連載初回にも少し触れましたが、わたしが生涯の友と決めているフープダンスは、実は大変歴史の浅いも…
当番ノート 第15期
ジリジリと照らす、強烈な陽射しの八月。 暑さとともに、お米のうまみも増してきます。 日ごと、稲穂の色も変わってゆく。 暑さに耐えながら、草とりの日々。 台風におののき、強風やゲリラ豪雨にあわてふためき、害虫発生時は困り果て。 気温が上がらぬ冷夏や、日照不足の時は、田んぼの神様にお願いするばかり。 風にそよぎ、黄金色に実った 稲穂たちが波打つ。 ちゃんと実ってくれたこと、今年も収穫できること。 ひた…
当番ノート 第15期
Fair weather friends 〜直訳通りのお天気の良い時だけ都合良く遊びにくる友人家族がシドニーにカナダから遊びに来ていた。本当の友人はお天気の良い時も人生の嵐の最中、曇った日が続いてにっちもさっちも行かなくなった様な時も変わらずに側にいてくれるものだけれども、どの人がFair weather friendかと言う事 は自分を取り巻く環境が嵐に巻き込まれてみないとなかなか判別できない。…
当番ノート 第15期
その日は新宿御苑の事務所にこもっていたところ、野暮用でついと外に出て、また事務所に戻る途中、花園小学校の脇で地震に遭遇しました。 横を走っていた車がぐにゃりとハンドルを切って停車し、おやと思った瞬間に電信柱が風になびくススキのように揺れ、往来を歩いていた人びとが一斉に目の前の花園小学校の校庭になだれ込んでいきました。校庭から見ず知らずの人々と肩を寄せ合いながら眺めていた、コンニャクのごとく揺れるビ…
当番ノート 第15期
青々とした稲粒。 花を咲かせたあと、稲穂はどんどん栄養をたくわえて、実入りします。 八月初旬、田んぼは、一瞬、ぐっと静かになります。不思議なほど、しんとする。 しっかり実をつけるための時間。 農家は、淡々と、草をとって、水をみて、田んぼの世話をする。 写真をみると、波打つ緑は、とても涼やかなのですが、 実際、この時期の田んぼは、かなりハード。 ジリジリと照りつける陽射しと、脳が溶けるような暑さに、…
当番ノート 第15期
パンパンに張った二個のスーツケースを引きずりたどり着いたシドニー。まるでそこはテーマパークに迷い込んでしまった様な感じがする不思議異空間だった。圧倒的な白人文化が街中に溢れかえっていたものの、そこはアメリカとも違う、イギリスでもない、カナダとも何かが違った。ハワイに似ているのだけど、何故かぼくは空気の中にそこはかとなく乾いた鉄の赤さびが朽ちてゆく気配をいつも感じた。そんな中で唯一の救いはオーストラ…