当番ノート 第16期
世界の片隅の扉の向こうに、その町があり、その事象がある。 ”事実事典氏” 住所:ツバメ町 G地区 繭の小路 彼はこう語る——— 「なにしろ、ツバメ町には創作的なことをできる人間は、極めて少ない。ツバメ町の人間にできるのは、消えない虹を作ったり、過去に読んだ本にまつわる記憶を消してもう一度その物語から新鮮な感動を得られるようにしたり、そんなことだからね。小説や歌や絵画は、この町で…
当番ノート 第16期
バーのカウンターの中にいると、いろんな人がお店に来るもんだから、いろいろな景色が見える。たまに見かけるのが、お酒がまったく飲めなくて、申し訳なさそうにしている人。オーダーに伺うと小さな声で「ソフトドリンクはありますか?」と眉をひそめながら聞いてくる。そして、すかさず一緒に飲みにきた人は「え? ここにきといて飲まないの!?」と圧をかけるような人もいる。もちろん悪気があるわけじゃないんだけど。 あたら…
当番ノート 第16期
前回はBob Dylanの”Subterranean Homesick Blues”を取り上げました。そこで情報の断片を過度に集積させることが、その個々の意味性を崩壊させるという面白さがあること、その光景が『童夢』にも見られることを言いました。 この『童夢』は、何回読み返してもそのスピード感とスリル、そしてドラマに圧倒される大友克洋のマンガです。高度経済成長期を過ぎた頃の公営団地を舞台…
当番ノート 第16期
世界の片隅の扉の向こうに、その町があり、その香りがある。 ”白昼夢調香師” 住所:ツバメ町 K地区 鈴の小路 店主はこう語る——— 「香水の香りというのは、白昼夢に似ています。夢か現か、立ちのぼっては消えていく。記録にとどめておくことも、他人への正確な伝達もできず、擬音で表現することもほとんど不可能。今その瞬間の、その人の感覚においてのみ存在する。その当人の感覚内においてすら、…
当番ノート 第16期
もし、会った人一人ひとり質問を投げかけてもいいのなら、聞きたいことがある。それは、 「あなたにとって、特別な一杯はありますか?」 特別、というと少し頭を悩ませるかもしれない。思い出に残った飲みものはあるか?という質問に変えてもいい。うーーーんと考えるよりはパッと思い浮かぶものがよい気がする。 ぼくの場合、特別な一杯は「Gin Tonic(以後ジントニック)」。今では居酒屋でもメニューオンしてて、ど…
当番ノート 第16期
前回のボトルに続き今回は、同じ面白さを感じている、Bob Dylanの楽曲について書いてみます。 それまでアコースティックギターで純粋なフォーク・ミュージックを歌っていたBob Dylanが、初めてエレキギターを持った曲があります。Subterranean Homesick Bluesです。 http://www.bobdylan.com/us/songs/subterranean-homesic…
当番ノート 第16期
世界の片隅の扉の向こうに、その町があり、その星がある。 ”六等星をもらえるプラネタリウム” 住所:ツバメ町 J地区 灰の小路 店主はこう語る——— 「”外”のかたは、滅多にこの町には来ないものですから。私も、こうして”外”からのお客さまにお会いしたのは、何十年ぶりかしらねぇ。そんなわけで、この町には、”外”のかたに泊まっていただくような場所が用意されていないのですよ」 ガイド…
当番ノート 第16期
3000円。 東京都内のチェーン居酒屋に行き、飲み放題コースを選んで飲むときの平均金額。飲み放題でなくても、そこそこつまんで飲んだら、そのくらいはかかる金額じゃないだろうか。たくさんつまんでお腹を膨らせ、たくさん飲んでいい感じに酔える、酔いが進むぶん会話も盛り上がりやすい。ぼくは88年生まれなんだけど、同世代をみると、そういう飲みをしている人が多いように見える。 そういう飲み方は “嫌い” とか …
当番ノート 第16期
50人くらい入れる静かで真っ白なスペースにいくつものボトルが整然と並んでいます。それらは、アタックなど市販のプラスチックの洗剤容器だったはずです。しかし表面がやすりで削られ、何の商品かは分かりません。 今年の5月、東京都現代美術館で「フラグメントー未完のはじまり展」を見ました。この展示は、断片的な情報が氾濫する現代において、その「断片」との向き合い方、あるいは「断片」の受け入れ方をわたしたちに提案…
当番ノート 第16期
世界の片隅の扉の向こうに、その町があり、その店がある。 ”階段オルゴール屋” 住所:ツバメ町 Y地区 樫の小路 店主はこう語る——— 「いらっしゃいませ。……あれ、見ない顔だね。もしかして”外”からのお客さんですか。では、”ツバメ扉”に気に入られたんだね。この町に入るとき、”ツバメ扉”を通ってきたでしょう。たいていは、あの扉はかたく閉じていて、”外”の人が通れることは滅多にないんだけど。”…
当番ノート 第15期
ぼくは二十代の後半まで、まるで英語が話せなかった。これから英語で話す内容を頭で組み立てているうちに初歩的な文法や発音の間違えを人前でするのが恥ずかしくなったり、話すタイミングを失って話題は既に次のトピックに移っていたりして、英語を話す事、ということはまるで濁った川の底から無くした鍵を見つけ出す様に手探りをするかの様な心許ない事だった。 日本語以外の言葉を話す、という事はぼくに違う生き方が出来る事を…
当番ノート 第15期
気づいたら東京地方も梅雨が明け、すっかり暑くなりました。 連載期間中に痛めた腰も少しずつ回復に向かっています。出張続きで干せなかった梅を、今週こそ見計らって干したい(これを土用干しといいます)ところです。 実は先日まで連載回数を全8回だと思っており、前回の「遊びをせんとや」で終わりにするつもりでした。では最終回はビデオダンス作って〆ようかなどという目論みはもろくも崩れ、あとがき的な雑文で後を濁して…