当番ノート 第9期
夏休みの最終日。 ぜんぜん宿題をやっていなくて、夏休みの前半の出来事や天気なんて全然もう思い出せなくて、 それでもなんとか必死に振り返りながら、絵日記を完成させた。 もう、あれから20年くらい経ったのに、 まったくそれを彷彿させる、毎週木曜日は、夏休みの最終日。 この2ヶ月間、わたしの当番である金曜日の前日の木曜日は、いつもそんな気持ちを思い出した。 2ヶ月前。 タカヒロさんからアパートメントへ声…
当番ノート 第9期
梅雨に入ったころに 始まったこの連載も 今週で最後。 すっかり季節は夏ですね。 合計8回の連載の中でいろんな切り口から 自分って人を伝えられたらと思ってきましたが 巧く伝えることはできたでしょうか。 自分的には全く伝えることが出来なかったなと。 ちょっと後悔しています。 でも中には わかったよって 言ってくれる人がいて その人の中に自分という人間が どんなかたちであれ存在してくれていたら また新た…
当番ノート 第9期
昨日、初めて救急車を呼んだ。 私のためではなくてお兄ちゃんのために。 兄の意識ははっきりとしていて、 「まり、」 そう一言。いつものように部屋の戸の外側から声をかけられた。 「なーにー」と、これまたゆっくり私が返事をすると反応がない。 何だろうと思って部屋を出ると苦しそうに屈んでいた兄が、「救急車呼んで」と。 電話をしたあと、救急車は思いのほか早く到着した。 結果から言うと兄はそこまで大事にも至ら…
当番ノート 第9期
僕が、誰かの写真を撮らせてもらうときにお話していること、 それは、今ではなく、20年後、30年後のような未来のことだ。 そのとき、その写真を眺めるあなたや そこに一緒にいるかも知れない誰かのことを想ってもらえたらと。 そして、ほんとうの月日が過ぎたときは、 そこに写る自分たちのことや写っていないいろんなことを 思い出してもらえたらとても嬉しい。 写真は未来にのこすタイムカプセルであり、 過去へとつ…
当番ノート 第9期
朝、校門をくぐるずいぶん手前で、私の影が空に落ちていくのを見た。よく晴れた空の、鈴の音のような白い雲の隙間、どこからでも転落しそうな青いプールに、まっすぐ、綺麗なフォームで飛び込んでいった。 四月の桜並木が、風にくすぐられている。校舎の窓が、いくつかもう開いているのが見える。 先週まで姉妹みたいに遊んでたみぃちゃんが、今日はスーツを着てあそこにいる。きっと緊張してる。どうしよう、私、すごくう…
当番ノート 第9期
これは政治じゃない、生活だ。 とても上手く説明なんて出来ねーよ、バカだから。 でも何がおかしくて、何がおかしくないことくらいわかるよ。 起こってる事柄は理屈だよ、構築された事実だよ。 嘘がバラまいたピラミッドだよ。 でもその震源は、いつだって心のはずだろ。 人は何かを感じて、何かを起こす生き物なんだ。 純度ある物事の動きには、感動があるんだよ。 何年も前から、何十年も前から、知ってるやつは知ってる…
当番ノート 第9期
誰かとの時間を共有するということは、 共有している相手の時間を、 一時の命を、わけてもらっているということだと思う。 先日夢に、しばらく会っていない、おそらくこれからも会うことのない人が現れた。 もう何年も会っていないのに時間は今を流れていて、 たまたま再会して、互いの近況を語り、別れるという、 なんの面白みもない、いつもの夢で起こる不思議なことがなにも起こらない、 ごくごく自然に起こりそうな日常…
当番ノート 第9期
空の青も 海の青も 例えば思い出の青も 全部全部 自分の好きな色なのです。 大学生の頃撮った まだ青い自分の 青い写真。
当番ノート 第9期
生き物の中身を、私は見てみたいと思う。 生きている私。呼吸をして動く、動物の、その皮膚の内側。そのからだ。こころ。 私は私の中身を見たことがない。 大学に入ってから、動物の骨を標本にする活動を始めた。 純粋に骨への関心もあったけれど、私にとってその一連の作業は骨格標本を完成させることを目的としているのではなかった。 私は生き物の中身を、この手と眼で、直接確かめたかった。 知っていますか? 生き物の…
当番ノート 第9期
長男が生まれる年の、ある夏の日の昼下がりのこと。 途轍もない音をたてて激しい夕立が降ったことがあった。 それは、家の屋根が落ちてしまうんじゃないかと思うほどの勢いで、 おまけにお腹にずっしりと響くような雷の音が遠くから聞こえてきた。 妻と僕は玄関の扉を開けて、ばちばちと音を立てて落ちてくる無数の雨粒をびっくりしながら眺めていた。 ずどーん! 大きな雷の音が遠くで鳴り響いた。 その瞬間、クーラーやス…