当番ノート 第9期
その時、僕は18年前の夏にいた。 見渡す限りの水田には、青々とした稲穂がびっしりと実り、 整然と並び交わる畦道が、世界を均等に区別していた。 真夏のじりじりと照りつける太陽の光と、うだるような暑さのなかで、 ほんの一瞬だけ、無邪気に口笛を吹くようなそよ風が、僕の頬をなでた。 ずっと向こうまで続く緑色の稲穂が、まるで大きな絨毯のようで、 どこからかやってきた風に吹かれて、軽やかに波打つのが見えた。 …
当番ノート 第9期
お休みの日。窓越しの空で電車の音がする。踏切の警報機。いくつも並んだ車輪の音が、青い空の岸を大きく曲がり、雲の森へ入るのを、ソファに埋まったまま見ていたら、器の割れる音がした。 「うわ、ごめん」という声に、ソファの背もたれ越しでキッチンを見れば、太郎さんが割れたお皿を警戒しつつ、機嫌を伺うようにこちらを見ている。 私はいいよと伝えるつもりで、「にゃーお」と一言口にした。 「だいじょうぶ、怪我し…
当番ノート 第9期
ぼくらの生きるこの世界は 捉え方で、見え方で、伝わり方で どうにでもなるし どうにでもなってしまう。 結局ぼくらは、自分が可愛くて仕方がない。 現代をある程度不便なく生きれている人は、 そんな思考が、どこか頭の片隅にあるはずだ。 もしくは、片隅にも置けないほど忙しくしているか。 世間体、立場、環境、在り方、居場所、偏見、生き方、存在することについて。 あらゆるテーマが転がるさなか、 ぼくらは、いつ…
当番ノート 第9期
やさしい死神は、不器用に人前にあらわれるから 村人たちから嫌われていました。 やさしい死神は、誰も死なせることができないから 死神たちからも嫌われてしまいました。 雨の日、やさしい死神は森の老人の小屋を訪れました。 嘘をついて、迷子の人のふりをして、おじいさんを困らせました。 もうすぐ死ぬ順番の、森のおじいさん。 帰るところがないと告げると おじいさんは一緒に暮らそうと言ってくれました。 ミルクコ…
当番ノート 第9期
先日、父と妹が東京まで遊びにきてくれた。 こちらの予定も聞かずに勝手に日取りを決めて、それを妹伝いに連絡してきた父に対し、 妹は「予定空けてもらってごめんね。でもおねえちゃんにひさしぶりに会えるの楽しみにしてる」と言ってくれた。 わたしと妹は年が5つ離れている。 わたしが18歳で上京する時、妹はまだ中学生で、 互いのいろんな出来事を相談したり、励まし合ったりするには10代の頃の5つの年の差というの…
当番ノート 第9期
いつも見ていた風景 けどなにか違う風景 懐かしくもあり どこか他所よそしい そんな風景がそこら中に広がっていた 年二回帰るその場所は 変わらずその場所にあって そして少しずつ換わっていく もちろん自分も換わっていく それに合わせて場所も変わる 場所は姿を変え 僕は僕を変える その変化に巧く合わす事は難しく 知らない場所や物事は増えていく かつて自転車で駆け抜けた通り道 その場所で過去を見付けてみた…
当番ノート 第9期
あ、どうしよう不安だ 自信がなくなってきた 周りもみんな敵に見える あ、どうしよう 僕ちゃんと誰かに必要とされてる? どうしよう どうしよう! どうしようどうしよう! どうしよう! いいか。よく聞け。 そんなふうに不安だらけになったところで、実のところ世界は何も変わっちゃいない。 君の頭の中から覗く世界が、君の思い込みで急に恐ろしいものになっただけだ。 世の中は君のこといちいち相手するほどヒマじゃ…
当番ノート 第9期
僕は小学生のとき、朗らかないじめを受けていた。 「朗らか」と表現したのは、いじめる側にもいじめられる側にも 独特の「しめっぽさ」がほとんどなかったからだ。 いじめる人たちにも深い意味はなかっただろうし、僕も笑いながら嫌がらせを受け続けた。 それは「弄り」と言ったほうが正しいかもしれないけれど、 それでも「いじめ」かどうかを判断できるのは、受けた側にしかできないことだと思う。 小学2年のある日のこと…
当番ノート 第9期
自転車のペダル、漕ぎに漕いでる。 あっつい。ゆるい上り坂、長い。進んでも進んでもいつまでも今日だし。今日が直射日光でずっと当たる。影はアスファルトの上を滑って。ああもう汗が切れない。 並んで走ってるあいつの影は余裕の走行でむかつくわ。わたしの影だけ、おもちゃみたいに上下動して、しかも立ち漕ぎ。チャリか。チャリのせいか。 「身長だな」 うるせ。むかつくわ、あいつ。座高高いくせに。河川敷に出た…
当番ノート 第9期
時々、人に会いたくなって 時々、誰にも会いたくなくなって 時々、無性にアイスが食べてくなって 時々、自分を責めたくなって 時々、誰かに縋りたくなって 時々、夜の車道を歩きたくなって 時々、全てがわからなくなって 時々、姿を消したくなって 時々、感謝をして 時々、感謝を忘れて 時々、無理矢理TSUTAYAに行って 時々、妄想で泣いて 時々、あらゆる欲求に負け越して 時々、幸せってなんだろうなんてこと…
当番ノート 第9期
てっぺんにいいものがあるそうだ 誰か行けばとみんなが延々と言ってる のぼってみた 誰のためか みんな見上げてる まだ見てる もう疲れた なんかあった おりてみた いこう あげる まだみんな見上げてる . . . . . .
当番ノート 第9期
ロモちゃん。オス。 わたしの可愛い同居猫。 ロモちゃんは、わたしと恋人が付き合う直前に恋人が飼い始めた猫。 ほんとうの名前はロモなのだけど、しかもオスなのだけど、恋人もわたしもロモ「ちゃん」と呼ぶ。 人生には予期せぬことが起こるのは常だけど、今までの人生で動物と過ごしたことのないわたしにとっては、猫と暮らすということもまた、まったく予期していなかった出来事のひとつだった。 ロモちゃんが恋人の家にや…