当番ノート 第9期
先日、父と妹が東京まで遊びにきてくれた。 こちらの予定も聞かずに勝手に日取りを決めて、それを妹伝いに連絡してきた父に対し、 妹は「予定空けてもらってごめんね。でもおねえちゃんにひさしぶりに会えるの楽しみにしてる」と言ってくれた。 わたしと妹は年が5つ離れている。 わたしが18歳で上京する時、妹はまだ中学生で、 互いのいろんな出来事を相談したり、励まし合ったりするには10代の頃の5つの年の差というの…
当番ノート 第9期
いつも見ていた風景 けどなにか違う風景 懐かしくもあり どこか他所よそしい そんな風景がそこら中に広がっていた 年二回帰るその場所は 変わらずその場所にあって そして少しずつ換わっていく もちろん自分も換わっていく それに合わせて場所も変わる 場所は姿を変え 僕は僕を変える その変化に巧く合わす事は難しく 知らない場所や物事は増えていく かつて自転車で駆け抜けた通り道 その場所で過去を見付けてみた…
当番ノート 第9期
あ、どうしよう不安だ 自信がなくなってきた 周りもみんな敵に見える あ、どうしよう 僕ちゃんと誰かに必要とされてる? どうしよう どうしよう! どうしようどうしよう! どうしよう! いいか。よく聞け。 そんなふうに不安だらけになったところで、実のところ世界は何も変わっちゃいない。 君の頭の中から覗く世界が、君の思い込みで急に恐ろしいものになっただけだ。 世の中は君のこといちいち相手するほどヒマじゃ…
当番ノート 第9期
僕は小学生のとき、朗らかないじめを受けていた。 「朗らか」と表現したのは、いじめる側にもいじめられる側にも 独特の「しめっぽさ」がほとんどなかったからだ。 いじめる人たちにも深い意味はなかっただろうし、僕も笑いながら嫌がらせを受け続けた。 それは「弄り」と言ったほうが正しいかもしれないけれど、 それでも「いじめ」かどうかを判断できるのは、受けた側にしかできないことだと思う。 小学2年のある日のこと…
当番ノート 第9期
自転車のペダル、漕ぎに漕いでる。 あっつい。ゆるい上り坂、長い。進んでも進んでもいつまでも今日だし。今日が直射日光でずっと当たる。影はアスファルトの上を滑って。ああもう汗が切れない。 並んで走ってるあいつの影は余裕の走行でむかつくわ。わたしの影だけ、おもちゃみたいに上下動して、しかも立ち漕ぎ。チャリか。チャリのせいか。 「身長だな」 うるせ。むかつくわ、あいつ。座高高いくせに。河川敷に出た…
当番ノート 第9期
時々、人に会いたくなって 時々、誰にも会いたくなくなって 時々、無性にアイスが食べてくなって 時々、自分を責めたくなって 時々、誰かに縋りたくなって 時々、夜の車道を歩きたくなって 時々、全てがわからなくなって 時々、姿を消したくなって 時々、感謝をして 時々、感謝を忘れて 時々、無理矢理TSUTAYAに行って 時々、妄想で泣いて 時々、あらゆる欲求に負け越して 時々、幸せってなんだろうなんてこと…
当番ノート 第9期
てっぺんにいいものがあるそうだ 誰か行けばとみんなが延々と言ってる のぼってみた 誰のためか みんな見上げてる まだ見てる もう疲れた なんかあった おりてみた いこう あげる まだみんな見上げてる . . . . . .
当番ノート 第9期
ロモちゃん。オス。 わたしの可愛い同居猫。 ロモちゃんは、わたしと恋人が付き合う直前に恋人が飼い始めた猫。 ほんとうの名前はロモなのだけど、しかもオスなのだけど、恋人もわたしもロモ「ちゃん」と呼ぶ。 人生には予期せぬことが起こるのは常だけど、今までの人生で動物と過ごしたことのないわたしにとっては、猫と暮らすということもまた、まったく予期していなかった出来事のひとつだった。 ロモちゃんが恋人の家にや…
当番ノート 第9期
自分の 好きなことしか興味なくて よく 文字の中の世界に籠ってる たまに 顔を上げて足を踏み込むと 自分が 少し人とは違うと思い込み 壁作っては よく壊される そんな時は お酒を飲んで 強制的に脳内へと現実逃避 イヤホンで 耳を塞いで 好きな音楽の歌詞を 心に染み込ませては いつの間にか 夢の中へと帰ってゆきます そしてまた今日が始まる。 自分の好きなことしか興味がない日々。 たまに…
当番ノート 第9期
おかあさん、 お母さん。 お腹が痛いとき、ゆっくりとおへそのあたりをさすってくれる手。 お母さんを思い浮かべて一番に出てくるのはそんな記憶。 お母さん。 わたしのお母さん。 わたしはよくお腹を壊す子だった。 でも、どんなに痛くても、お母さんがぽんとおへそをひと撫で、それだけでたちまち痛みは飛んでいった。 その手はいつも台所の洗剤のにおいがして。幼いわたしがじゃれつくたびに、お皿を洗い流すあの清潔な…
当番ノート 第9期
僕が小学校にあがる頃、家族と一緒に暮らしていた小さな集落にある出来事がおこった。 それは、新たな高速道路の建設計画で、集落を縦断する大規模なものだった。 しかも、僕たちの家はちょうどそのルート上にあったのだ。 やむなく、僕たち家族は立ち退きを迫られた。 隣近所、といっても近くて数百メートルは離れてるような閑散としたところだったので、 その集落で道路建設のために立ち退たいのは結局我が家を含め数軒…
当番ノート 第9期
玄関のドアを押し開き、嵐が通り過ぎたあとの、ピカピカに磨かれた空気の中へ出た。 私は白いシャツを選び、カメラを入れたポーチを提げているだけで、雲を羽織るように身軽なスタイルだ。 通りを抜けるひんやりとした風が、私とすれ違うとき、ちょっと襟に触れ、袖を引いてからいった。 角にある清水屋さんの前に差し掛かると、今し方揚がったばかりのコロッケが銀色のトレーに並び、「野菜コロッケ 四十五円」という…