当番ノート 第8期
写真と文章が同時にやってきた。 初めての写真展と初めての原稿書き。 これまで写真展をしたことないし、文章など書いたこともなかった。 両方とも何をどうすればいいのか分からなかったけど、 やってみろと自分の中の声が聞こえたのでやることにした。 自分では気づいていないものに触れることができそうだったから。 終わってみて、本当にその何かに触れられたのかどうか、その自信はない。 ただ、自分が以前とは少し違う…
当番ノート 第8期
「姉さん、もう一度あのお話を聞かせてくれない?」 顔も体もふっくらとした妹が、痩せぎすの姉にねだった。 「あんた、また聞きたいの?小さい頃から何十回もしてきた話じゃない」 呆れた様子で姉が応える。 「いいの。何回聞いても、姉さんのあのお話はおもしろいわ。恐いところもあるけれど、すごく惹かれるの。ね、お願い」 「確かに、あの話は恐いだけじゃないものね。仕方がないねえ、それじゃあ話すわよ」 これはいつ…
当番ノート 第8期
水の大理石には糸のように細い針で波紋を作る差し手が伸びていた その日は音楽も聞かずにバスに乗って 静かなひとりの時間を過ごした 二枚の羽は静かに呼応しあって重なり合った 二枚の鏡に挟まれて普段は巡り会わないふたつが出会った 静かなカフェで いつ来ても変わらぬもてなしを差し出され ゆるりと寛いだ いろんな話をした 女の子の話はえげつない、と笑った けれど愛があるから、許してね あんな事言って、ほんと…
当番ノート 第8期
人はそれぞれが孤独な水滴のようで、どれほど時と心をかけようと、その心が、その目がうつす世界が、互いにまじわることはない。 それでも、人は手をのばす。ほかの水滴に向かい、濁流に押し流されると知りながら、くりかえし橋をかけようとする。流されたおびただしい涙は、百年たてば、手のひらにおさまるほどの塩の結晶しか残らないとしても。 世で知られる祖母と孫の会話が、色とりどりの毛糸で編んだセーターのよ…
当番ノート 第8期
我が家についている でこぼこな窓ガラス。 僕はこのガラス越しに見る世界が好きです。 形は、よくは分からないし 光もぼやけて、大まかな色しか判断できません。 でも、そこが良いのです。 完璧には見えない、形や色を想像してみる。 色と色、光と光が交じり合ってきれいな世界が広がる。 「きっと、きれいな青空なんだろうな。」 そんな風に考える。 実際の空を見るよりも、いっぱいいっぱい想像する。 そして、なによ…
当番ノート 第8期
才能や技術がなくても、口笛でもできれば誰でも作曲ができるのだと聞いたことがあります。 何年か前、ガレージバンドでちょっとした打ち込みの曲を作ってみようとしたことがあったのですが、どういじくり回しても一曲も完成させることができませんでした。一つのフレーズ、コード進行を作っても、それを発展させることができないのです。どのように脳を使ったらいいのかがわからないのです。 一つの情景があってもそこからなにも…
当番ノート 第8期
朝起きると両親の枕元にも小さなプレゼントがあった。 クラスのみんながサンタクロースの正体についてあれこれ言ってるとき、 「何をとんちんかんなことを」とまったく聞く耳も持たないほど僕はその存在を信じていた。 わが家のクリスマスの朝は、子供たちだけではなく、 親の枕元にも同じようにプレゼントがおいてあって、 パジャマ姿のまま家族みんなで大喜びしてたのである。 いまはなんと巧みなサンタクロース演出であっ…
当番ノート 第8期
シドとニックの二人は樹で囲まれた山の中の野原にやって来た。様々な草花の混在するその場所では、蝶や蜂やハナムグリや天道虫などが飛び交っていた。落ち葉の散らばる地面のところどころにはきのこが生え、蟻やダンゴムシや蜘蛛、その他多くの虫たちが行き交っている。太陽は少し傾いていたが、日光はわずかに黄みを帯びていたもののほとんど真っ白で、眩しすぎるほどだった。 彼らはその野原の片隅の、大きな榎(えのき)の陰に…
当番ノート 第8期
ベンチで友達を待っていたら、隣に座っていたおばあさんの手のひらに四葉のクローバーがあった。それはとても立派な大きな葉をしたクローバーで、おばあさんはとても大事そうにその葉をゆっくりと触っていた。 「拾ったのですか?」と思わず声をかけた。 お花が趣味のお友達にもらったのだと言った。 これを紙で挟んでおしばなにするそうで、中心が紫色の美しいクローバーをもちあるいては、時々ひろげては見ているのだと云う。…
当番ノート 第8期
目が見えない人が見える人の世界を想像しがたいように、耳が聞こえる人が聞こえない人の世界を知りがたいように、痛みを知らない人が、他者の痛みを想像するのは、宇宙の外側、死者の国を想像するよりも難しい。 北の小さな港町で、生まれ故郷を喪失しながら祖母は育った。町いちばんの美しい男のもとにうまれた彼女は、他の子たちとはあきらかに異なる風貌をしていた。大きな二重の瞳、高い鼻梁、ばら色の頬、こどもたち…
当番ノート 第8期
最近いろいろな機会をいただき いろいろな場所で いろいろな出会いをいただいています。 今までは考えられないような ところや ひとや。 でも、お話しをしてみると すきな事・・ すきな物・・ 感動すること・・ 大切に思うこと・・ 一緒だったりします。 そんな話をしていると時間を忘れてお話しをしてしまいます。 ふっと思うのです。 実は出会う前からもう、つながっているのではないかと・・・ そんな出会いを求…
当番ノート 第8期
いつから絵を描いていますか、という質問に「物心ついた時からずっと描いている」と答えることに憧れがあります。しかし私はどちらかというと工作が好きな子供で、学校や保育園で求められるとき以外に絵を描くことはありませんでした。 自分から絵を描くようになったのは小学校の六年生、そのころに自分の部屋が与えられました。姉に借りた漫画の表紙絵を色鉛筆で模写していたのが始まりです。それからだんだんとひとりの部屋で絵…