当番ノート 第35期
こんばんは!この週末は、藍の栽培と染めなどを行う歓藍社での活動で、福島県の大いなる田舎、大玉村に行っていました(大いなる田舎は村が掲げるキャッチコピー。渋い)いずれの回でも書ければとは思っていますが、村での暮らしは本当に創意工夫に溢れていて楽しい。農家やクリエイターを中心とした村での一連の活動に参加している人たちの、長年の英知に支えられた、機動力の高さ、人付き合いの絶妙な距離感や思いやり、スパスパ…
当番ノート 第35期
誰もいない作業場の跡地のような場所で、鉄骨に小屋が吊るされていた。 それは時々ゆっくりと回りながら、風に揺れていた。 二十二歳の冬の日、はじめてそれを見つける。 新潟に帰省して、犬の散歩に出かけた夕方のことだった。 いつものように通ってきた道の近くには、水田に囲われた作業場の跡地のような場所があった。 昔から知っていたのに一度も立ち入ったことのないその場所が、その日だけはなぜか気にな…
当番ノート 第35期
はじめて入った古めかしい喫茶店で注文したホットココアはほんのひとくち飲んだだけで舌の根元が痛くなるほど甘ったるかった。机を挟み向かい合って座っている女のひとについてあたしが知っていることはそれほど多くはない。あたしよりも二歳年上で大学生だということ。この店のホットココアに大きな角砂糖を三つも加えて飲むような味覚の持ち主であるということ。そしてあたしがアサクラ先輩と知り合う少し前まで彼と交際してい…
当番ノート 第35期
「地獄寺」―あの世とこの世の境界にある、人間の本音が隠れている場所― ◆地獄めぐり day 7 地獄めぐりをはじめて1週間が経った。この日はシンブリー県にある地獄寺、ワット・ピクントーンへ。この寺院には比較的珍しい「浮彫」タイプの地獄絵があるという。シンブリー市街地からバイクタクシーで30分、巨大仏の見える寺院に到着した。 この大仏の台座部分は回廊になっていて、そのまわりをぐるっと地獄極楽の絵が…
当番ノート 第35期
こんばんは!一気に寒いね。我が家ではこの週末にコタツはじめました。東向島にある今の家は、古い木造住宅をリフォームした物件で、どうやら壁が薄くてリビングの窓が大きいため、歴代の住居の中でダントツに寒い。私は寒さに弱い。という訳で、向こう半年コタツにおんぶに抱っこというか下敷きというか潜り込んで出てこない生活がはじまる。うう さて、今回はそんな気の抜け具合でのらりくらりと、靴下とお直しの話。一段と独り…
当番ノート 第35期
はじめて海外旅行に行ったのは、二十歳のときだった。 三月の厳しい寒さのなか、フィンランドをひとりで一週間ほど旅した。 旅の途中、フィスカルスという美しい村で一枚の絵葉書と出会った。 今までに引っ越しを三回経験したけれど、部屋のどこかに 必ずその絵葉書は飾るようにしている。 じっと眺めていると、当時の様々な記憶がやわらかな痛みを伴ってよみがえってくる。 まるであの頃の自分の肖像を見つめるようにして、…
当番ノート 第35期
温かい赤ん坊が僕の腕の中ですやすや眠っている。この子が生まれてから今日で十日目だか抱いている時は未だに緊張する。もしも自分が何かの拍子にほんの少しでも手を滑らせてしまえばこの子の身体はいとも簡単に壊れてしまうかもしれない。可愛さ以上にそういう恐怖心が身体を強張らせる。こんなふうに感じてしまうのは父親になった自覚が足りないせいかもしれない。現に妻や義父たちは慣れた手つきで赤ん坊を抱くことが出来てい…
当番ノート 第35期
「地獄寺」―あの世とこの世の境界にある、人間の本音が隠れている場所― ◆地獄めぐり day 3 地獄めぐり3日目は、昨晩宿泊したチャチューンサオ県にある寺院へ。寺院の名前はワット・チョムポートヤーラームといい、市内からバイクタクシーで5分ほどの近場にある寺院だ。前情報によるとここには朽ちかけの地獄があるとのことだが、いくら歩き回っても一向に見つからない。仕方がないので近くにいた僧侶に「この寺院に…
当番ノート 第35期
こんばんは。第二回目。先週、初回を投稿してから、見ず知らずの方の感想を見かけたり、友人からメールをもらったり、思いの外反響があって、これはお直しについて考えたり手を動かしたりが加速するかもしれない連載だなと、改めてありがたく感じている今。(感想ポストやワークショップ開催のお誘いはいつでも待ちしています、、!) さて、今回は一段ととっておきのやつお届けします。今年のはじめに東京と大阪でお直しの展示を…
当番ノート 第35期
物心ついた頃から、絵を描くことだけはずっと続けてきた。 大学四年生の頃にゼミの先生から絵を酷評されたとき、はじめて大きな挫折感を味わったように思う。 就職してからは仕事が忙しくなり、描くことはあくまで趣味と捉えることにして 自分のためだけに描こう、と割りきって描き続けた。 そして夏に鹿のような一本の木と出会った頃を境に、少しずつ絵に変化があらわれはじめた。 最初は、木や葉っぱ、雲、壁のひび割れなど…
当番ノート 第35期
「今から帰る」というメールが届いてから既に一時間以上が経過しているけど夫は未だに家に辿り着かない。夕飯の支度を終えてテレビの電源を点けると携帯電話のコマーシャルがブラウン管に映った。携帯電話をひとり一台持つ時代になったというだけでも未だに信じられないのに最新機種にはカメラ機能までついているのだという。わたしはテーブルの上に置いた自分の携帯電話を手に取り、今どこに居るの、と夫にメールを送った。あのひ…
当番ノート 第35期
「地獄寺」―あの世とこの世の境界にある、人間の本音が隠れている場所― タイは国民の9割以上が仏教徒という敬虔な仏教国である。そのため、まるでコンビニのように至るところに寺院が存在する。その数は約3万といわれており、日本のコンビニの数は2017年現在6万ほどであるので、街中のコンビニの半数が寺院であるような感覚である。そして数ある寺院の中には、コンクリート像で「地獄」を模した空間を併せもつ寺院が存…