きのうころしたいちまんびきのライオン いちまんびきのライオン いちまんびきのライオン きのうころしたいちまんびきのライオン きょうはなんびきころそうか
(『子どもに聞かせる世界の民話』より 「ヤギとライオン」)
雨が降ると一般的には商売あがったりだが、学校の図書館は一転大賑わいとなる。授業の終わりのチャイムがなるやいなや、外で遊ぶことのできない子供らが、わんさわんさと押し寄せて、芋洗い状態になる。本の妖精達はさっさとお気に入りの本の間に逃げ込んでしまった。この時とばかり、借りっぱなしの本が次々と戻ってくる。カウンターは本が山積み。「せんせーい、何かおもしろい本なーい?」と呼び出しがかかる。おもしろい本というのは、一番頭を悩ます質問だ。今まで読んできて気に入った本を聞き、主人公はどういったものがいいのか、ファンタジーは好きなのか、等々細かくこちらからも質問をしていく。これはどう?と手渡しても、長いシリーズが良いとか、文字の大きさはもう少し小さい方がいい、絵が気に入らないなどどいわれてなかなか時間がかかるのだ。その間にもカウンターの返却本は増えていく。「せんせーい、本借りたいんだけど。まだー?」この頃には静かに読書をしている子はわずか。大声で笑っている子、書架の間でかくれんぼをしている子、書架の上によじ登る子までいる始末。「どうぞ図書室の外でおやりください。」とつまみ出すのだけど、ずるずる引っ張られたり抱えられたりするのが楽しいらしく、また戻ってくる。走っている子を止めようと追いかけてはいけない。相手はよい遊び相手を見つけたとばかり、逃げていく。ああ、天国から地獄とはこのこと。そろそろ伝家の宝刀、コウチョウシツホットラインを出すぞー、と思った時、キンコンカンコンとチャイムがなった。小悪魔たちはいっせいに走り去った。ほっとして周りを見ると、乱れた書架、置き去られた本。私は本を拾い集めながら次の時間に読む本に出てくるヤギの歌を口ずさむ――。
梅雨の時期になると必ず読む定番の話がトリニダード・トバゴに伝わる昔話『ヤギとライオン』です。夕立に降られずぶ濡れのヤギに、ライオンが自分の家で雨宿りをしないかと声をかけます。ありがたく家に入ったヤギにライオンはヴァイオリンを弾きながらこんな歌を歌いました。
「雨の降る日にゃうちにいて、うちにいて、雨の降る日にゃうちにいて、おいしい肉のおいでをまつさ」
ヤギは自分がおいしい肉なのだとわかったのですが、落ち着いてライオンからバイオリンを借りると、ヤギも歌を歌いました。
「きのうころしたいちまんびきのライオン いちまんびきのライオン いちまんびきのライオン きのうころしたいちまんびきのライオン きょうはなんびきころそうか」
その後も歌い続けるヤギに怖くなったライオンは家族を逃がし、ついには自分も逃げてしまう、というなんともゆかいな話です。おいしい肉のくだりでは、子供らは口々に「ヤギだ!」と言い、ヤギの歌が始まると笑い出し、最後にヤギが助かると、「よかった。」とほっとした顔をします。この後の子供達、止めるまでずっと「きのうころしたいちまんびきのライオン」と歌っていました。実は、学校の外でその歌を聞いた誰かから学校に連絡がきたらどうしよう、などどドキドキしていたのですが、全くの取り越し苦労でした。よかった!
☆今月の一冊:『子どもに聞かせる世界の民話』(矢崎源九郎 編/実業之日本社)