おかあさんは、ぎゅっと くまきちをだきしめました。すると、「くるしい!」「ばかあ!」「とんちき!」「わるものお!」というこえが きこえてきたので、おかあさんはびっくりしました。
(『ありこのおつかい』より)
今日の読書の授業は昔話の紹介だ。読み聞かせも終わり、各々読む本を選んでいる。K君が書架の間を歩きながら、「パンツパンツパンツ……」と連呼している。別に「パンツ」と言いたいなら言えばいいのだ。いくらでもいいたまえ、休み時間に!私はK君のそばに近寄り、「お口、故障したのかな?」と尋ねると、「そう。」とにっこり。それでは、と私は彼のほっぺたをくるくるっと回して、「修理完了!」と言葉を返す。K君はその後「パンツ」を封印して席へと戻っていった。どうか再び壊れませんように。後ろからけたたましい笑い声。2人が読んでいるのは、ももたろう。近寄ってみると、まさに、ももたろうが桃から生まれた場面。おぎゃあと元気よく泣いているももたろうの股間を指さし、にやにや笑って、「これ見て。」と言う。私は呆れ顔で、「君たちにもついているでしょ。」と一蹴し、本選びに迷っている子のところへ飛んでいく。あっちのテーブルでは、「ばーか」「おまえのほうがばーか」とにらみ合い。最初はお互い囃し立てているだけなのだが、加減ができずにだんだんエスカレート、そのうち手が出て足も出て試合終了、先生から毎回お小言をいただくことになる。1時間目からもうぐったり。
そんな子供達が大好きな一冊が、『ありこのおつかい』。ありのありこはおかあさんに頼まれて、おばあさんの家に行く途中です。つるくさだと思ってひっぱったものはかまきりの足。怒ったかまきりは、ありこを飲み込んでしまいます。ありこはおなかの中でわめきます。「いやだあいやだあ、あやまったのにたべるなんて―ばかあ。」そこへむくどりがやってくるのですが、かまきりのおなかの中ではありこが「ばかあ、ばかあ」とさけんでいます。むくどりは、自分にむかってかまきりが「ばかあ」と言っていると思い、かまきりを飲み込みます。このあと、むくどりはやまねこに、やまねこは、くまに同じように飲み込まれてしまいます。「ばかあ!」「わるもの!」「とんちき!」と悪態のオンパレード。でも、大丈夫、最後、話は見事にまあるく収まります。
そういえば、「おまえのかあちゃん、でべそ!」なんてはやし言葉、とんと聞きませんね。
☆今月の一冊:『ありこのおつかい』(石井桃子 文 ・中川宗弥 絵/福音館書店)