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3F/長期滞在者&more

知の巨人

長期滞在者

以前お世話になって早2年。

今月から、毎月24日に記事が公開されることになりました。

月に1回ということで、あれなんで。

前回よりほんの少し多めに書こうと思ってます。

 

24日というと、私が住んでいる西調布駅では、いくつかの飲食店で割引となる。
多分、西日暮里でも西永福でも西九条でもどこでも、西と付く駅の周辺ではありきたりなはず。

といっても、大抵の場合は気付いたら24日は過ぎているし、仮に覚えていても仕事終わって駅に戻ってきたら、もう店は閉まってもうてるパターンがほとんど。

もし「西」と名につく駅に住んでる方がこの連載読んで、「あ、今日近くの食堂安い日や。お呼ばれしとこ。」とお役に立てれば御の字です。

西調布

強引に「西」に結び付けて、連載の初回続けてみます。

20歳の頃、「オバマが大統領の時代にアメリカを旅しておきたい」という、今となってはなんのこっちゃい、でも当時はとても真剣に絞り出した理由で、バイトで金を貯めて、1か月アメリカを旅した。

ニューヨークに着いて深く考えもせず、グレイハウンドバスの1ヶ月乗り放題券を購入した。たしか300ドル弱。(値段いくらやったかなと久しぶりに検索してみたら、乗り放題は2012年に廃止されたよう)

バッファローからキーウエストまでアメリカを南北に縦断し、その後はもうひたすらに西へ向かった。

結果、宿にも泊まらず夜はバスの中で過ごし、日中に街をブラつく生活になった。金は浮かせられたが、ゲストハウスでの甘い友情や乱痴気騒ぎやらは経験できなかった。

グレイハウンドバス

郷に入れば郷に従えと日本からはまったく本を持参せず、現地でペーパーバックを何冊か買ってバスの中で読もうとしたが、まったく頭に入ってこなかった。

日中、英語で会話するので精一杯で、もうそれ以上の英語は脳が受け付けなかった。

 

そんな中、途中立ち寄ったほどほどの規模の街で、日本語の本を売っている本屋があった。

1冊、以前からずっと気になってた本が置いてあった。立花隆の『脳を鍛える』という本だ。

学術書みたいなタイトルだが、中は大学での半年間の講義を収めた本で、若かりし頃の筆者の伝記の側面もあった。(ということは、それだけ授業中に雑談が盛り上がってたということかいな、、。)

手に取って裏表紙を見ると、英語で16ドルとシールが貼られていた。

バイト2時間分か。たかっ。16ドルあったらゲストハウス1泊できますやん。

中古のペーパーバックは3ドルほどで買えた。

「まぁ、日本の本をわざわざアメリカで読まんでええか、店出よ出よ」と思ったが、

“日本に帰るまで残り2週間。この本読み始めたら、残りの旅の日々がさらに充実するかもしれへん。ほなら、充実の割合をどのくらいに仮定しようか。いや、そもそも残りの旅の1日をいくらで設定しよか。もうこれ掛け合わせたら16ドルなんかすぐ超えるんとちゃいます。”

情けない損得勘定の輪が膨らみ続け、気付いたら、買わないと一生後悔するぞくらいの勢いの強迫観念が生まれていた。16ドルに。

「あぁ、ままよ、儘よ。買おう。」

結果、この本にのめり込み、旅の間、繰り返し繰り返し読んだ。
いくらで買ったなど気にも掛けないほど、当時はとても心酔した。

東京堂書店

旅から帰ったら、いつも通りの大学生活が始まり、なんや毎日焦りながら過ごしてたら、旅で読んでいた本のことなど忘れていた。

そしてその3年後、休学を経てまた大学に戻りそろそろ卒業が見えてきた頃、神保町にある東京堂書店で、かの本の著者、立花先生を見かけた。

あまり人気の無い平日の夕方に特に目当てもなく棚をぼーっと眺めてたら、ストンストンという音がフロアのどこからか聞こえてきた。

あぁ、店員さん棚の入れ替えでもしてはるんやろうかと思っていたら、続いて大きくドスンという音がする。えらい扱いの乱暴な店員さんおるんやなぁと思って、音のする方向に眼を向けると、立花先生だった。

もしやと思って遠くから観察していると、棚から本を手に取りパラパラ数秒ほど眺めると、床に置いたかごに本を落として、次から次へと棚から本を手に取っていた。
かごの中には多くの本が重なっていた。

“かごの中にある本は、先生の仕事場『ネコビル』に後日送られて、請求書も一緒に届く仕組みなんやろうか”

そんなどうでもよいしょうもないことが頭を巡った。それよりも、どんな本をストンストンさせてるか、あのとき観察しておけばよかった。

ただ、数秒パラパラして、<かごに落とすか棚に戻すか>を決める買い方を垣間見ると、もはや先生にとっては本は味わう対象とかそういう次元のものではないのであろう。

珈琲飲んで、プカプカくゆらせて、「さぁ味わいましょか」と本を読むのとはまるっきり違うのだろう。

それ以前に、100円で古本買う際も、わざわざAmazonの商品ページを開き、星の数を眺めつつ、レビューをスクロールして「なんやら絶賛してる人おるし、買うてみよか」と鈍間な決断をしている私とは違い過ぎる。

 

思い返せば、10年前の旅から結局1ページも開かずじまいの『脳を鍛える』の中に、「人生は何万回もの選択の積み重ね。どう積み重ねたかでその人の人格が浮き彫りになる」というような記載があった(ように記憶している)。

あの時のストンストンやドスンは、知の巨人による選択の積み重ねを象徴するプロフェッショナルで貴重な音やったんやなと。

人生30年目になりましたが、星の数やら評判やら意図的に目を伏せて耳を塞いで、自分で選んで失敗してを繰り返して、たまにどでかいアタリで微笑もうと思ってます。

終わり

次は2月24日です。

キタムラ レオナ

キタムラ レオナ

1988年兵庫生まれ

Reviewed by
artistmichino

Reonaさんの記事を読ませて頂きました。
文章を進めて読んでいくうちに関西弁の方言にとても親近感が湧きました。
またアメリカでの留学生活、大学での本屋での出来事。何気ない日常にReonaさんの価値観が映し出されていると思うと読んでいて楽しかったです!
そして本屋での偶然の出会い。
そこでの新しい気付き。この後のReonaさんの人生観にどう反映されたのか楽しみです。

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