金曜日から出張でシンガポールに滞在している。
昨日は休みだったので、The Projectorというシンガポールでおそらく唯一のミニシアターに足を運び、映画を見た。
このProjector、映画ファンの心をくすぐる内装のミニシアターで、こりゃ何回も通いたくなるような場所であった。
(改めて上の写真を見返してたら、女子トイレはどんなポスターやったんやろうかと気になってくる。)
今回私がProjectorで見たのは、Free Soloというアカデミー長編ドキュメンタリー賞をとった作品。
クライマーのAlex Honnoldがヨセミテの岩壁を命綱無しで単独クライミングした模様を記録したもの。
山とは無縁なシンガポールという国でこの映画を見ることに痒さを覚えるとともに、ものの数分であっちの世界に飛ばしてくれる映画館という空間の偉大さを改めて実感。
Alexのクライミングの動き、キャンピングカーでの生活の様子、彼女とのコミュニケーションはもちろんのこと、Alexを追いかける撮影隊の動きがまたとても魅力的であった。
撮影隊のメンバー達もクライミングのプロ集団であり、命綱をつけた状態で、上/真横/下からAlexの動きを撮影していく。
Alexの極限まで集中した状況を撮影隊が少しでも崩してしまったら、そのとき彼は数百m下へと落下し、死んでしまう。こうした一瞬たりとも気を抜けない時間が何時間も続く。まさに息遣いがこちらまで聞こえてくるよう。
そして、この撮影隊の中で特に印象的だったのが、Alexから最も離れた距離に待機し、地上から撮影していたカメラマン。
ヨセミテの岩壁の中には、いくつかクライマーにとっての鬼門があり、実際Alexも命綱を付けた状態で行った予行クライミングでは手を滑らした箇所もあった。
その一番離れた場所から見守っているそのカメラマンは、どうしてもAlexの姿を直視することが出来ず、目を背け続けていた。そしてこのカメラマンの表情を撮り続けるという構図がまた面白かった。
そんなクライミングの様子を直視できないカメラマンがいる一方、Alexは命がかかっているのをまるで楽しむかのように登っていく様子は、映画を鑑賞する方としては痛快であった。
これまでに無いような映画体験になったなぁと思い返しながら、少し雨が降っている中、映画館から滞在先まで歩いて帰っている道すがら、ipodに貼ってあるカニコーセンのシールを見たら、一気に日常に戻された。
日常とは離れた場所で別世界を描いた映画に衝撃を受けても、リアルなものとして粘りついてくるのは生活だなぁと、尊敬しているカニコーセンのブログをシンガポールで読み返してます。