長期滞在者
自分だけが感じている感覚なのか、ほかの人も一般的に感じるものなのか、いまだによくわからないことが、いくつかある。そのときを過ぎるとすぐに忘れてしまうし、ささいなことだから、あらためてほかの人と話したりする機会がない。 —— たとえば、コーヒーの効力が切れた匂い。ドリップコーヒーに入れるお湯の量をちょうどよく調整するのは難しい。多すぎると水っぽくなって台無しになってしまうし、…
長期滞在者
最近決まりきった道で通勤するのがつまらないと思って、帰り道はできるだけ毎回違う道を自転車で走ろうと節操なくルートを変えている。それで遠回りになったとしても、いつも通る見知った場所と見知った場所が思わぬ繋がり方をしているのを発見したり、頭の中の尼崎地図が日々書き替わっていくのが面白い。 先日、阪神尼崎駅前から北上する幹線道路の、その一本西の裏道を走って帰っていたのだが、その幹線道路じたいが北西に傾い…
長期滞在者
ゴールデンウィーク中1日だけ時間が取れそうだったので、京都グラフィーへ行ってきました。 メイン会場だけでも15箇所ありますが、朝から夕方までで一気に9箇所の展示をしっかり見ることができました。 見る前は、先端的で難解な手法が次々と繰り出されてくるのかと思っていたら、全然そんなことはなく、意外とオーソドックスに写真を運用していました。 扱っているテーマも、社会的な題材、メッセージが明確なものなどが中…
長期滞在者
春は天候が荒れる。体調も崩れやすくなる。職場の面子が変わったり、環境が変わったり、出会いと別れの季節だ。波のようにいろんなことが揺れて、揺さぶられて、安定するのがなかなか難しい。わたしにとってもそれは同じことで、様々な変化に適応するために日々必死です。 3月末から4月末にかけて、これまでにはなかったような体調不良が続いていたのも大変だった。身動きが取れないような頭痛が連日続き、急遽CTスキャンを受…
長期滞在者
稲葉俊郎『いのちを呼びさますもの』(アノニマ・スタジオ) 本棚の前を立ち去ろうとした時、視界の隅で一冊の本が光った気がして振り返った。 血液のように真っ赤な表紙に、金色の箔押しでタイトルが刻まれた本が、棚の左上にあった。その本は、並べられている他の本と比べてどこか雰囲気が違っていて、どうして気づかなかったんだろうと思いながら手に取る。ぱらぱらとめくって、その時は稲葉俊郎さんというお医者さんが命や体…
長期滞在者
今日は夕方から天気が荒れるという予報。こんなにすっからかんに晴れているのにな。 夜大荒れだからといって、今使いもしない傘を持って電車で通勤するのは、どうにも楽しくない。 ああ、自転車に乗りたい。 こんなことをつぶやく自分にびっくりする。 お前そんなに自転車好きだったか(笑)。 実際、例年になく寒かったこの冬、ほとんど通勤に自転車を使わなかった。使えなかった。加齢は確実に根性を蝕む。なんだか寒さに年…
長期滞在者
うちで開催する写真展に合わせて、立派な本を出版される方は少なくありません。作品集が、全国の書店に並べられて、多くの人の目に触れ、人の手に渡っていくというのは、いまや幻想もいいところで、だからこそアートブックフェアへ参加したり、展覧会の会場で販売することで、ある程度の数の目処を立てたいのだろうと思います。 出版と展示を連動させて進めていくのは大変なことです。 どういう事情かわからないけれど、出版記念…
長期滞在者
桜が咲いた。 3月の週末。大阪に向かう新幹線の中で、東京の桜もこの土日が見頃というニュースを目にした。 今年は例年よりも随分と早く開花した桜。 大阪に着くと、京都の桜も咲いているみたいだよという話を耳にした。 父親が大阪出身ということで、小さい頃から大阪や京都にはよく足を運んでいたが、 私は、日本でも特に美しいと言われている京都での桜を見たことがなかった。 「ねえ、お父さん。京都で桜が咲いているみ…
長期滞在者
新しい街に引っ越してきた最初の夜というのは、けっこう心細いものである。 駅に降り立ち、ここがこれから住む街か……とまわりを見渡す。これまでに何度か訪れたことがあっても、いざ住むとなると、街を眺める視線もいつもとは違ってくる。いざ住みはじめてしまえば、空気はだんだん身になじみ、なんとなく心安い気持ちになるのだけれど、引っ越しの初日、まだここは「知らない街」である。 バスに乗ったり歩いたりしながら家に…
長期滞在者
斜面の両端に植わった桜は零れ落ちる寸前で、淡い桃色を鈴が鳴るように震わせていた。 淡く霞んだ海と空の境界線は曖昧で、途切れることなく船が行き来する。 大きなのと、小さなのと、右から、左から。 3艘の船が白い線を引いて交差するのを見つけて、満たされた気持ちになる。 理加さんは、やわらかな地面に種を蒔くみたいにして話す。 この日豊島へ行ったのは、踊る人でありからだのことを考える人でもある濱田陽平さんの…
長期滞在者
うーむ。 この3月は何やらいろいろ収穫の多い月だった。 ような気がする。 以前、やっと成形が終わってホッとしている、と書いた、 やきもの仕事の本焼成が二月半ばすぎにやっと終わったのだけれど、 その直後にプチ・バーンアウト状態になったのもあり、 3月前半は2週間の休暇を取ることにした。 1月に訪れたフランスのメッスに再び向かい、 今回は坂本龍一x高谷史郎によるライブコンサートを鑑賞し、 その後で、も…
長期滞在者
桜が咲いて、マグノリアの花も、もう散り始めた。精密検査にための通院ラッシュがひと段落して、普通に働く生活戻らないといけない。季節の変わり目だからなのか、気分が優れない日々が続いているものの、天気は日々好転しているので、うざうざした気持ちのままでいるのは正直勿体無い。だけど、濡れた顔のアンパンマンのように、力が出ないのも本当で、毎日今日も一日頑張らないといけないのかと、朝お布団の中でしばらく泣きそう…